センター試験が終わり、緑間は二次試験に向けての勉強に取り組みはじめた。二次試験は理科、数学。だが理科は二科目ある。
化学の参考書を開いて、黙々と勉強する彼を高尾は後ろの席から眺めていた。




部活に打ち込めるのなんて、高校までだ。大学生になっても打ち込める人間もいるが、高校よりは人数が限られる。
高尾は日本文学を学ぶために進み、緑間は医学を学ぶために進む。
違う学校に進む二人は、きっと同じコートに立つことはない。
(忘れちまうのかな)
例えば中学時代の級友のように。
例えば小学校の頃の親友のように。
(忘れたくない)
そう思おうが、きっと記憶はなくなる。更新でもしない限りは。
(厭だなあ)
一年の時に流した涙も、二年の時の怒った顔も、三年になって笑った時間も。
摩耗して、風化して、
時の流れに浚われてしまうのか。





無事に高尾は第一希望の大学に合格した。
張り出された自分の受験番号の写真を撮り、メールに添付。両親と妹に一括で送信し、新たなメールを作成する。
(受かったぜ。そっちは、っと)
短い言葉と写真だけのメールは、大した時間もかからずに送信が終了する。
合格書類を受け取って携帯画面を眺めると、新着通知の文字が現れていた。表示された短いメール。
(当然なのだよ、って。まあ真ちゃんらしーけど)
受験番号票とラッキーアイテムと思われるウサギのストラップの写真。
刻々と別れは近づいている。





引退してからは、一度もバスケットボールに触っていない。
触ってしまえば、溢れ出してしまう。緑間との思い出が。
離別の恐怖を押し込めて、高尾は部屋の隅にボールを押し込んだ。





別れが詰まった紙を、固い筒に突っ込む。ひどく軽い筒からはかたかたと軽い音。
あまりに軽すぎる音から逃げるように、薄っぺらいスクールバッグの中に詰め込んだ。
自転車の後ろに固定されていたリアカーはもうない。バッグの中にあったTシャツももうない。教室に自分の席はもうない。
彼の隣の居場所ももうない。
「さよなら、真ちゃん」
なのに未練だけは山のようにある。







ぼくらゆく先には眠っていないから



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このあと黒子とかリコとかが首突っ込んで、ハッピーエンドになるはず。

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