一人ぼっちの可哀相なあの子は微笑みを浮かべて言っていた。 「誰からも嫌われたくないんです」 だから笑顔でいるんです。 だけどその笑顔も、すぐに曇ってしまった。淋しいという感情によって。いくら笑顔でいても一人ぼっちなのは変わらないから。 「好かれないなら、無駄なんです」 そう言いながら、あの子は笑った。涙は枯れ果てて、泣き腫らした真っ赤な目が兎を思い出させた。今日もあの子は泣き疲れて眠りに落ちるのだろう。千切れそうにか細い声でおやすみと呟き、返事のないのを知りながら。 羊は眠りを妨げる事はない。 好かれたい、という感情の為だけに、あの子は嫌いな物を好きになった。本当に嫌いで嫌いで仕方なかったのに、無理矢理好きだと思い込んだ。 そうして、赦しを乞うたけれど。 「仕方ないんですよ。皆、自分と同じものが好きじゃないといけないんです」 言い訳じみた言葉を羊以外に聞くものはない。 羊は首肯しない。 だが、否定もしない。 一人ぼっちの可哀相なあの子は涙を浮かべて言っていた。 「嫌われたくないから、嫌いたくないんです」 無理矢理に作った笑顔は、哀しいという感情に曇ってしまう。遂に涙は頬を伝い、雨となって地面に降り注いだ。 「嫌いになるくらいなら、死にたいです」 嫌いになることを怖がり、怯え、また涙は流れていく。 「傷付く痛みを、苦しみを知っているから」 そんなことを自分の手でしたくない。 かなしさもくるしさも知っている人間の台詞だった。 羊は毛皮の御蔭で痛みも苦しみも知らない。 愛したい、という感情の為に赦し受け入れ笑うあの子は、今日も涙を堪え無理に笑顔を作る。自分を殺した下手くそな笑顔に気付くのは自分だけで、あの子自身も気付かない。 そうして作りあげた形は、ゆがんで、ひずんでいるというのに、あの子は気付かない。今にも崩れ落ちそうだというのに。 羊はただ見ているだけ。 削ぎ落として、作り替えてしまった心は、もう取り返しのつかないくらいにまで歪になってしまっていたのに、あの子はそれでも足りないと言う。笑って笑って笑って。壊れかけた心は本当に笑顔をつくろうとしていたのか。 羊にはあの子が笑顔を作ろうとしていたのか、繕うていたのかわからない。 あの子は、実際には気付いていたのだろう。壊しても作っても、決して届かないのだと。 それでも。 「黒ちん」 羊の声に、あの子が肩を揺らす。俯いているのは顔を隠すため。 「紫原くん」 顔を上げたあの子の顔は涙に濡れていた。瞳から溢れ、頬を伝った涙が落ちる。 羊は黙って両腕を広げた。腕に飛び込んだ小さな身体は、羊の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。 羊にはこの子に何があったのかわからない。何も言わない彼をただ胸に抱いて、今日も涙を受け止める。 傍にいるよ、と誓ったけれど いつか限界がくると知りながら。 ------- Music:あいするきみを |