くうはくに気付く水曜日

いつもの事だが、今日の黒子テツヤは輪をかけて存在感が薄かった。普段ならばすぐに気付いていただろう、その存在に気付くのが遅れる。
火神は違和感を覚えたものの深くは考えなかった。


あくむを見た木曜日

伊月がそのことに気付いたのは、部活の真っ最中であった。ほんの違和感でしかない事が、一度気付いてしまえば、明確な違いである。
「黒子、影が薄くなってないか」
黒子は一瞬泣きそうな顔をして、頷いた。曰く、最近だんだんと存在感が希薄になっているようだ、と。
黒子の横で聞いていた火神が険しい顔をしていた。


さいかいを願う金曜日

「恐らく、あと五日くらいでしょう」
黒子は無表情でそう告げた。火神は何がだよ、と問う。黒子は俯いて言う。
「僕が消えるまで、です」
笑い飛ばしてやろうかと思ったが、はたと気付く。黒子は無表情なのではない。感情を殺していたのだ。小さく身体が震えていた。火神はただその小さな右手を握ってやることしかできなかった。


さよなら告げた土曜日

部活連中は黒子のことを知り部活を休んでもいい、と言ったのだが、黒子は断っていた。
こいつはこんなにもバスケが好きなのか、と僅かに感動した。
ミニゲームの途中だった。パスの際、黒子がボールを取り落としたのは。おや、と火神は首を傾げる。キセキの連中と一緒に試合に出ていた黒子は、パスに関しては右に出る者はいない。それくらい、パスに特化していた。その黒子がパスミスとは珍しい。火神がそんなことをうだうだと考えている内に、ベンチにいた伊月に引きずられるように黒子はコートを出ていった。
ミニゲームが終わり、全員が集合する。リコは険しい顔をしている。その横には伊月と黒子。
黒子の左の腕が途中から消失していた。


おもいで辿る日曜日

部活に参加出来ずとも、練習風景が見たいと言った黒子は、ベンチからひっそりと午前だけの練習を眺めていた。自分にも見えにくくなっているのだ、と伊月は言った。火神も意識を向けなければ、その姿は見えない。だが何と無く、いるという感覚(黒子曰く野生の勘。カントク曰く第六感。木吉曰く愛の力)に従って手を伸ばせば、確かにそこにいるのだ。
とは言え、何処か掴んでいないと消えてしまいそうなので、腕を掴むのだが。そんな状態の黒子の腕を掴んだまま、午後は部活の面々と過ごした。
珍しく黒子が笑みを浮かべていた。


あなたが消えた月曜日

部活がオフだったため、黒子を引きずってあちこち歩く事にした。左の腕は殆ど見えなくなっていて、辛うじて無事な右手を握ってやる。左腕は見えないのではなく消失しているのだと気付いてはいたが、問わなかった。
マジバに行き、ゲームセンターに立ち寄った時、黒子が呟きを零した。
「プリクラ、撮りたいです」
男二人だと撮影コーナーに入れないので、リコにメールで協力を仰いだ。リコは二つ返事で了承し、彼女を加えた三人で撮影コーナーに入る。と言っても、リコは撮影機には入らず、外で待っていたが。
男二人で撮ったプリクラを仲良く半分に分け、リコに礼を言えば、気にするな、と言われた。改めて彼女の男前さに火神は感動した。


なにかが足りない火曜日

黒子は学校に来なかった。もう二度と会えないのだと何とは無しに理解していた。
二人で撮ったプリクラはまだ手元にある。









Title:さなせそ

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昔一週間連続更新して書こうとしてたネタ。