カボチャ頭が笑う。
「ねえ知ってる? ハロウィンってさ、前夜祭であって本当におめでたいのは次の日の万聖節なんだよ」
寧ろハロウィンは魔物の力が一番強くなる日なのさ。
かたかたかた。足元に転がるカボチャが笑った。目の前のカボチャ頭に同調するかのように。
「トリックオアトリートって呪文は、妖怪の言葉なんだよ」
お菓子をくれないと、悪戯するぞ。
「さあ忠告はしたよ」
さあ前夜祭の晩餐だ。カボチャ頭はいなくなっていた。






白い布を頭からかぶった子供や黒い布を肩に羽織った子供、果てはぐるぐると包帯を巻き付けた子供が行進する。誰も彼も、手にはカボチャの提灯をぶら下げけらけらと笑みを浮かべている。
「トリックオアトリート!!」
頭に釘を刺した子供がドアをノックした後、叫んだ。遅れて周りの子供達が喚く。とりっくおあとりーと。
顔を覗かせた女が、悪戯されては困ると笑い、飴玉を取り出す。子供達はしめしめとほくそ笑む。とりっくおあとりーと。なんて素敵な言葉なのだろう。
次の家に歩き出そうとした時くり抜いたカボチャをかぶった奴が現れた。細身なシルエットの所為で男女の区別がつかない。カボチャ畑の前でカボチャ頭は一礼する。
「君には俺様が見えてるんだねえ。流石はダンピールだ」
カボチャ頭は目の前で立ちすくんだ少年を見下ろして笑う。橙の頭がかたかた揺れる。
「…パンプキンヘッドが何の用だよ」
右の目を隠した子供が、見掛けに似合わぬ、鋭さを秘めた言葉を吐いた。カボチャ頭は笑う。
「やだなあダンピールの坊ちゃん。俺様は忠告に来ただけだよ」
ウィルには、気をつけてね。





カボチャ頭が忽然と消えた後、辺りを見回して気付いた。一緒に菓子をねだっていた子供達がいない。かなり向こうに小さくなった影が見えた。カボチャ頭の言葉は気にかかっていたが、とりあえず子供達に追い付く事が先決だ。走って漸く声が届く辺りまで追い付いた。丁度人数確認をするためか、一人ずつ数字を叫んでいる。いーち。にー。さんー。よん。ごお。ろーく。ななー。はちい。
九、と声を出そうとした。しかしそれよりも早く、割り込んだ声。
「きゅう」
じゅー。じゅういーち。じゅーにー。じゅうさあん。よーし、全員いるなー。じゃあ次はあそこの家だなー。
ぽかんとしてその光景を見る。目で子供達の人数を確認すれば、確かに十三人いた。自分が含まれていないのに。
かたたたた。奇妙な音を響かせる奴がいる。骸骨頭の子供。はてこんな子供がいたであろうか。はっとした。コイツは。
「ほら言ったでしょう。ウィルには気をつけてって」
いつの間にか後ろに立っていたカボチャ頭の声がする。腕からぶら下げたくり抜き南瓜がカボチャ頭を振り向いて笑った。
「子供の中に入っちゃったウィルは、いなくなる時に一人だけ連れていくのさ」
かたかたかたかたかたかたかたかたかた。その笑い声が周囲の畑のカボチャが発している事に気付くまでに、少しの時間を要した。
「君は大丈夫だったけどね」
かたかたかた。カボチャ頭が笑う。影は十一しかない。
「どうして助けた」
あの子供達の中にいたなら、自分がいなくなっていた可能性もある。間違いなく、このカボチャ頭に助けられたのだ。
「じゃあ問題。俺様はなんの妖怪でしょうか」
カボチャ頭は質問をクイズで返してきた。少し苛立ちながら、頭を巡らす。
「ジャック・オ・ランターンだろ?」
けたけたけた。カボチャ頭がカボチャと一緒に笑う。せーかい。
「では、あの骸骨頭は?」
答えようとして、詰まる。さあ何の妖怪だったのか。
「スカルか? アンデッドか? グールか? …正解はウィル=オ=ウィスプでしたー」
かたかたかた。カボチャが笑う。ふと気付くと、腕からぶら下げたくり抜き南瓜すら笑っていた。
「救われない殺人鬼ウィルは悪魔に魅入られて、この世を渡り歩いているのです。石炭に火を点して」
「それはジャック・オ・ランターンもだろ」
かたかたかた。カボチャが笑う。
「残念。ウィルの炎は全てが全て惑わす為。ジャックの炎は導く物もあるんだよ」
そう言いながらカボチャ頭はこちらの手元のくり抜き南瓜を指差す。でなかったら、そのカボチャを掲げないでしょう。かたかたかた。またカボチャが笑った。
「だから、今回は助けてあげる。今度はわからないけどね」
カボチャ頭は笑って姿を消した。カボチャ畑も静まっている。
「カボチャ食べてぇな」
ぽつりと呟く。呟いたら余計に食べたくなった。家に戻ったら、人狼にパイでも焼いてもらおうか。腕に下げたくり抜き南瓜が音を立てた。





The eve of All saint's day




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ハロウィン企画第三弾。佐助=カボチャ頭ってネタからでした。趣味に走りすぎてワケがわからない。
光秀→ウィル、政宗→半吸血鬼(ダンピール)、小十郎→ワーウルフ(人狼)、佐助→ジャック。
イメージソングがわかった人はいるでしょうか。


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