どうせ、お前も。俺を置いて逝くのだろう。 ぽつりと漏れた言葉は、しばらく漂ったあと静寂に飲み込まれた。虎の形をした彼は、丸くなって尻尾を泳がせるだけだ。 「どうしてそんなこと、いうのさ。だんな」 その傍らに佇み、虎に声を投げる。虎はその赤と黒の縞の下で何を思っているのか。小さな脳みそしかない烏にはわからない。 「竜であった政宗殿も、狐であった元就殿も、鬼であった元親殿も、貉であった官兵衛殿も、みな死んでしまった」 だから、お前も俺を置いて逝くのだろう。 ぐるぐると唸り、虎は烏を睨む。赤い赤い瞳の奥には、憂鬱と憎悪が秘められている。 烏にはわからない。 夕の烏を暮鴉と呼ぶそうだ。といっても小さな脳みそしかない烏には、ぼあ、という発音しか頭に刻まれていない。 かあかあ。 夕暮れの道を子供が歩く。 烏が鳴いた。 かあかあ鳴いた。 母ちゃん恋しか。 母ちゃん欲しか。 されどやらぬぞ。 母ちゃはやらぬ。 わいわいと唄いながら、橙の道を歩く。烏はそれを見下ろし首を傾げた。烏、とは自分の種族だ。母ちゃん、とは何物か? 結局烏にはわからない。 かあ、と力無くなった声で鳴いた。地に臥した身体からは熱がどんどん失われる。ああ、寒い。 「ほらやはり」 お前も俺を置いて逝くのではないか。 虎の声が聞こえる。 ねえ、泣いているんですか。 そんな思いは声にならない。碧の瞳を閉じた。 「…烏か」 「今年は寒かったからね。凍えちゃったんだろうね」 真っ黒な身体を濃淡のついた緑の外衣に包む。思っていた以上の重さに驚いた。 「…佐助」 主の声に振り向く。 「お前は俺を置いて逝くな」 赤の瞳が。 冀はくは、毒薬を ------- ハロウィン企画第二弾!! 虎なのか人なのか、烏なのか人なのか。よくわからなくなって頂ければ願ったりです。 フリー配布は終了しました。 |