関ヶ原と松永。
※3宴発売前、ストーリー捏造。台詞とか違うかも


「なあ、松永殿の夢ってなんだ?」
そう言いながら、琥珀の瞳がこちらを見上げてくる。まだ七つにも満たない童子故の純粋さだ。
「夢か。夢と欲望は紙一重と聞くがな」
「ええっ?じゃあ夢って悪いもんなのか?」
その黄金色の目を丸くして、竹千代が声をあげる。
「ある者に聞かれたんだ。夢は何かと」
「卿は何と?」
「…皆が幸せになれる世界が欲しい、と」
童子故の傲慢と無知で言ってのける。己の未熟さも知らぬ故に。
「欲しい、のかね?」
「どういう意味だ…?」
私は弄っていた茶道具を元の場所に戻し、くつくつと喉の奥で嗤う。
「本当に望むならば、全てを壊してでも手に入れれば良いだろう」
欲しがるのではなく。
嗤って言うと、竹千代が薄く笑んだのが見えた。
(この少年の欲望を見届けたいものだな)
松永久秀は心中で呟いた。

前田慶次の手腕により天下は石田と徳川の手で治められ、泰平の世となったはずであった。
だが。

大地に残った黒い焦げ痕と、あちらこちらに倒れた人影が見える。どれも動かない。
どろりとした血の匂いに顔を歪める。所々に火薬の匂い。それらの匂いを身に纏い、目の前の男は悠然と微笑む。嗚呼、厭な目だ。その鉄納戸の色をした瞳が気持ち悪い。
「…み、つなり」
力無く横たわった青年を見下ろす。銀色の髪は地面に散らばり、翡翠の瞳は瞼に隠されたままだ。
「これが卿の『夢』だ。なんとまあ、脆い物ではないか」
「…三成から、離れてくれ。松永殿」
拳を固めて、目の前に立つ男を見る。ばたばたと風が彼の上着をはためかせた。
霞んだ視界がぐらぐらと揺れている。
「それは出来ないな」
「…何が目的だ」
目の前の男は酷く打算的な人間だと知っている。何かに対して要求を求める人間だ。
「私は卿の夢が砕ける瞬間が見たいのだよ」
気が付いた時には、首を片腕で締められて、家康の身体は宙に持ち上げられていた。。
曇天の空の遠い部分が黄色くなっている。ああ、嵐が来ているのか。家康はぼんやりと思う。
酸素が足りない。痛みすらも麻痺してきた。
「叶える為に奔走し、手に入れた大きな夢を壊した瞬間。それが一番美しい」
全ての物は壊れるから美しいのだよ。男の嗤い声が耳に谺する。煩い。
「まずは」
黙れ。黙れ。だまれ。
「卿からは、絆を貰おうか」
どくりと心の臓が跳ねる。
やめろ。やめてくれ。
霞んだ視界の端に、男に踏み付けられた三成が見える。動かない。
家康の首が男の腕から解放された。
男が家康を持ち上げていた方とは反対の腕を上げる。指を鳴らす音が響いた。
地面が揺れる。火薬の匂い。あちこちが熱い、痛い。
立っていた自分ですら、火傷を負った。なら地面に臥していた三成は。
「ああああああッ!!」
夢が壊れる音がした。
琥珀の瞳が、歪む。強き意志が消え、絶望に染まる。
「卿が真に欲したのは泰平の世ではないのだよ」
周りの虚辞に惑わされ、歪められたのだ。
この言葉が彼に、東照に届いているのかすらわからないが構わず言葉を紡ぐ。
「卿が望んでいたのは」
友垣だ。
愚昧愚昧。絆などこんなにも容易く切れる糸なのだ。
「結局卿は幼き童子のままだったのだよ」

月は空より失われ、
日は天より墜ちた。


(月日の失墜は)
(梟のたくらみごと)