幸村はいい声をしている。
まっすぐで、突き抜けるような声だ。まだ幼さもあるが、それがまた良い。

「幸村。次のライブで歌わぬか?」

元就がそう提案すると、案の定幸村は固まった。

「俺が、ですか?」

ギターを鳴らす手が止まる。ピックが落ちた。

「政宗殿がおられるでしょう…?」

「俺はこの曲をお前と政宗で歌ってもらいたいのだ」

楽譜を突き付ければ、幸村が苦笑いを浮かべた。

「ですが…」

「いいじゃねーか。ギターなら俺もやるから、二人で分担しようぜ」

政宗が口を挟む。前以て政宗には相談してあったことだ。

「歌ってもらいたいのだ」

もう一度言えば、幸村は観念したように頷いた。







「…にしても元就が作曲するなんて初めて聞いたぜ?」

「…あー。アイツ、恥ずかしがり屋だから」

幸村とお前のためなら、って思ったんだろうよ。
元親がそう言えば、政宗が笑った。

「まるでLove letterだな」







「次の曲は、作詞作曲元就。Titleは『tear-away』」

観客がどよめいた。政宗がギターを手にしたからである。それだけでなく、幸村がマイクスタンドの前に立った。
たん、たん、
たんたんたんたん
ドラムのシンバルがリズムを刻む。
ベースとキーボードが鳴り響き、曲が始まった。






何故、俺に歌わせようと思ったのですか。
そう尋ねると、元就殿はにやりと笑った。

「幸村の声と政宗の声が好きだからだ」

「は…!?」

破廉恥でありまするぞ!!と言いたいのをぐっと堪えた。からかわれているに違いないと思ったからである。

「Aの音は政宗。Eの音はお前だな」

言われてみると、確かに政宗のパートにはAの音が、幸村のパートにはEが多かったように感じる。

「まあ、さしずめあの曲は俺からお前達へのラブレターといったところか」

破廉恥!!と叫んだ幸村の声に驚いた元親がペットボトルをひっくり返した。





Tear-away





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声フェチな元就。ってかこのバンドは声フェチで構成されてる。その辺も書きたい。
tear-awayは「向こう見ずな若者」。熟語だと「やむなくその場を離れる」。「涙を拭う」とも使います。
元親がひっくり返したペットボトルの中身は、オレンジジュースでお願いします。