ボーカルが欲しい。
ギターもベースもドラムもキーボードもいる。だけどボーカルだけがいない。
今いる四人の中で歌が上手いのは俺以外の三人だ。でも二人は声量が足りない。一人はギターを弾くので精一杯だ。

「どっかに良い奴はいないかねェ」

屋上のドアを開けた。
歌が聞こえた。

「So tell me… tell me… the reason why…
How can you do this to me…
You break my heart…
And you make me cry…」

それは韓国人の女性の曲だったように思う。高音は少し掠れたハスキーな声。だけどそれがまた色っぽくて、どきりとした。
そう、俺はコイツの声に惚れたんだ。

「…なあアンタ、バンドやらねえか?」

一世一代の告白の返事は、YESだった。






「次で本当にlastだ」

マイク越しに政宗の声が響いた。濃い茶色の髪がステージライトに照らされて、赤みを帯びて見える。元親はそのすらりとした後ろ姿を見て、知らず知らず口角をあげた。
目の前の青いTシャツの男がマイクを持ち直す。

「最後の曲の前に、もう一度メンバーを紹介するぜ」

そして赤いTシャツの男を指差す。幼い顔立ちをした彼はその見かけに似合わない凛とした表情でギターを掻き鳴らすパフォーマンスをしてのけた。

「ギター、幸村!!」

わあっとホールに歓声があがる。ついで政宗の指が示したのは深緑のTシャツの細身の男。
橙の髪のあちこちをピンで留めた男は、弦を弾いて一礼する。

「ベース、佐助!!」

次は黄緑のTシャツの痩せた男。グリッサンドを奏でて、薄く笑った。きゃー、と客席から悲鳴。

「キーボード、元就!!」

次に政宗の指がこちらを差した。皆で色違いにした、紫のTシャツを着た俺を。
ドラムを鳴らして、簡単なパフォーマンスをした。あがる歓声。政宗の声。

「ドラム、元親!!」

最後に政宗は自分の胸に手を当てて、一礼する。

「ボーカルの、政宗」

悲鳴と歓声の間の声が客席から溢れる。途中途中にメンバーの名前を呼ぶ声が混ざっていた。
だが、政宗がマイクを構えると沈黙する。

「次の曲は、作詞も作曲も元親だ」

俺が頑張って作った曲。それを政宗が歌ってくれて、皆で演奏できる。俺は笑った。幸せだ。

「じゃあ聞いてくれ。
 b.s.r.で、thunderclap」

ドラムが鳴り響いた。





例えるならば雷鳴で
それほどまでに衝撃的
突然響いた爆音に
俺の心は飛び跳ねた

thunderclap
届けこの思い
thunderclap
響けこの思い
thunderclap
どうかあの人に
「愛してる」と伝えてくれ!


thunderclap





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バンドパロディ。
政宗の声が好き過ぎて、ラブレターがわりに歌を作っちゃう元親。ただし声が好きなのであって、政宗自身に対しては恋愛感情はなし。