光秀と佐助

小さな頃から光が見えた。
緑色に輝く蛍のような光だ。
その光は普段は見えないのだが人が死ぬときに現れる。そしてふらふらと彷徨って消えてしまうのだ。
「あれは何なのですか?」
偶然近くにいた少年に声をかける。橙の髪が特徴的な少年は、その光を見送ながら答えた。
「人の魂、ってお師匠様は言っていたよ」
「魂、ですか」
二人でふらふらと彷徨う光を見つめる。先程侍に切り捨てられた流人の胸元から現れたそれを二人で。
「あれが見える人は闇に魅入られてんだってさ」
俺みたいに。
彼はそう言って右手を翳す。太陽の下だというのに、その手には黒い闇が纏わり付いていた。
「私もでしょうか」
「たぶんね」
少年のその薄い掌から闇が消える。不思議なことにその闇は僅かな紫色を纏っていた。
「ねえ、アンタ名前何て言うの?」
「桃丸です」
こちらが名乗ると少年は吹き出した。
「ずいぶん可愛い名前だね」
失礼な、とは思ったが、口には出さなかった。代わりに尋ね返した。
「あなたは?」
「ゆうひ」
橙の髪が翻る。まるで夕焼けの空のようだ、と思った。
「夕方の『夕』に、火の粉の『火』。で、ゆうひ」
「変わった名前ですね」
意趣返しのようにこちらがそう言えば、「ゆうひ」は頭を掻く。その仕種は橙の髪を散らせるだけに留まった。
「村の奴らが適当につけた名前さ。大人になったら、主から名前を貰うから」
「忍だったのですか」
大して驚きもしないが、一応驚く仕種をしておく。「ゆうひ」は苦笑いを浮かべた。忍になりたい、とは思っていないのだろう。
「…もしまた会うことがあって、その時俺に主がいなかったら、アンタの忍にしてくれる?」「ええ」
そう答えれば、忍の少年は笑ったようだった。

「狡いよねー。俺様達の所にだって婆裟羅者は三人しかいないのに、アンタの主の所には前田の夫婦を合わせて六人いるんだもん」
口を尖らせて、橙の髪の青年が愚痴を言う。
「信長公の人徳のなせる業ですよ」
「本気で言ってる?」
「ええ」
顔を見合わせて同時に吹き出す。ひとしきり笑った後、忍の指がこちらの白い髪に触れた。
「綺麗な髪。雪みたいだね」
そんな褒められた色ではないように思う。幼い頃は死人の肌の色だ、と言われたこともある。
「あなたの髪も夕焼けの空のようで美しいですよ」
そう言い返せば、忍はふわりと笑った。
「ねえ、桃丸。お願いがあるの」
「なんでしょう」
緑の瞳がこちらを捉える。幼い頃に二人で見た、あの光を思い出した。
「次の戦で、うちの大将と旦那を殺してよ。そうしたら、俺はアンタの忍になれるから」
「夕火の願いなら聞き入れぬわけにはいきませんね。わかりました」
ありがと、と忍の青年は笑みを浮かべた。


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闇属性のこの二人が好き。武田が嫌いだけど仕えてる佐助と、そんな佐助が大好きな光秀。両思いです。死ぬときは二人で仲良く。
光秀の幼名は桃丸とする説と彦太郎とする説がありますが今回は桃丸で。