半兵衛と長政

「竹中、大丈夫か」
風邪をこじらせただけの僕の部屋を訪れたのは、この国の領主だ。いつもの赤と白銀色の鎧ではなく、錆浅葱色の着流しを着ている。
「大丈夫だよ、長政君。一日寝ていたからだいたい治ったしね」
君こそ政は大丈夫なのかい?
からかい半分にそう尋ねた僕に、長政君は真面目に答えてくれた。まあ君が政をサボるとは思わないけれど。
「風邪で倒れた食客なんて放っておけばいいのに」
「食客だろうが私の友だ。友が倒れたら見舞うべきだろう」
ああ、もう。この男は優し過ぎる!!


「去るのか」
「うん。諸国を見てまわりたくなったからね」
元々、契約などはなかった。書物が読みたい僕と、軍師を欠いていた長政君。利害の一致から僕は書物と衣食住を提供され、引き換えに長政君に策を授けた。
「礼を言うぞ。竹中」
「礼なんていらないさ」
諸国を見てまわりたくなったから、というのは嘘だ。本当の理由は違う。
「じゃあ、行くね」
「ああ」
後ろは振り向かなかった。

闇を秘めた者は、光に惹かれるらしい。
僕も例に漏れず、自らの闇に気付いてからは光を探していた。探し続けて、長政君と会った。光の近くは心地好かった。だけど、そのうち気付いた。
彼は僕の光ではない。
僕が欲しいのは圧倒的なまばゆさを持った光。その明るさでもって僕の闇を消し去ってくれるような、光。
彼の光は優し過ぎる。例えるなら星屑のような、闇を受け入れ共に在ろうとする光。
だから長政君から離れた。彼の近くにいたら、僕の闇はいつまで経っても消えないだろうから。
だけど。
「嫌いじゃなかったよ」
長政君の優しい光も。
だからどうか君が、君の光を欲する人に会えますように。

亡き友に祈りを捧ぐ
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半兵衛は秀吉と会うまで何処で何をしていたのか