いつからか見る夢がある。
その中では自分は誰かの名を呼んでいて。
「――!!」
夢でありながら少なくなる温もりに、毎回その誰かの死を確信するのだ。
「我もすぐに逝くぞ。――」
身を裂く灼熱を最後に、毛利元就は目を覚ます。

佐助はいつものように、へらりとした笑みを浮かべて、3年と思われる男子達の言葉を聞いていた。少なくとも表面上は。
(ああ、今日の晩御飯どうしようかな。今日は大将もお方様も帰ってくるし、大量に作れるのが良いよな。そうだ、トマト余ってるし、鶏肉のトマトソース煮込みにしよう)
表面下では、晩飯について考えているが。ちなみに、「お方様」とは、彼の養母にあたる武田(旧姓:上杉)謙信の事である。
「聞いてんのか!!?」
「ばっちり聞いてますよー」
聞いた後、ばっちり流している。
さて、何故入学3日目の佐助が7人の男(暇だったから数えた)に囲まれているか。答えは「呼び出し」を受けたからである。
髪の色がおかしい。染めてるんじゃないか。
(生れつきの自毛ですよ)
態度が生意気だ。直せ。
(前世からなんで、もう直りませんかねぇ)
可愛い女の子3人連れて登校とは、良い身分だなぁ。調子に乗るなよ。
(…元就サンと半兵衛サンと旦那の事かな。ドSと腹黒とお馬鹿さんだけど?)
まぁ流石にこんな事を答えてしまうと、悪化するのがわかっているので口は閉ざしたままだが。

「そういや、もう一人の方はどうなってる?」
ある3年が他の奴に尋ねる。
他に呼び出しされた奴がいるのか。元忍の佐助の耳はそれを聞き取っていた。
「態度が生意気だから、粛正してるらしいよぉ」
ギャハハと下品な笑い声。聞いた瞬間に、佐助は顔面に衝撃を感じた。殴られた。
「聞いてんのか?下手に出れば調子に乗りやがって」
いつ下手に出たのだろうか。そんな事を考えながら、佐助は立ち上がる。咄嗟に衝撃を受け流したので無傷。昔取った杵塚って奴か。
「あぁ、良かった」
佐助はにっこり笑う。3年達は一歩下がる。
なんだコイツ。殴られて笑うなんて頭オカシイんじゃねえか。
(失敬な。俺様の頭は正常だよ。たぶん)
佐助は思う。そして、言う。
「ようやく殴ってくれたね。つまり、これからの俺様の行動は正当防衛です」
さあ俺様に倒されたい奴、寄っといで。
笑う佐助の顔の中、その目だけは笑っていなかった。

飛び掛かってきた一人を、重心の移動によって避ける。辺りを見れば、ナイフを持った奴もいるようだ。銃刀法違反じゃないの、バタフライナイフって。
(なんか昔を思い出すな)
そんな事を思っていたから、その声に気付くのが遅れた。
「おぉらあっ!!」
男の大声。少し嗄れたその声は、佐助の聞き覚えのある物。
(何処で聞いたっけ?)
一瞬、考えた。だから。飛んできた3年生を避け損ねた。
「うわっ!!?」
ぶつかったそいつを見れば、気絶していた。腹を殴られたのだろう。顔面には傷一つなかった。
そこで気付く。投げたのは誰か。

「一人相手に人数使うなんざ、三流の証拠だぜ?」
タイマンなら、いつでも大歓迎だがな。
笑い声。さっきの大声の人物。佐助からは、見えない。だけど聞き覚えのある声。姿が現れる。銀色。眼帯。空色の瞳。
「鬼の旦那....?」
長曾我部元親が、学ランを肩に羽織った姿で立っていた。


ウィスタリアの花
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ウィスタリア(wisteria)は藤




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