綺麗に焼けたスクランブルエッグを、12枚切りの食パンの上に置く。更にその上にハムをのせ、何も乗っていないパンを重ねた。
「よし、完成」
今日も良い仕上がり。
佐助は完成したサンドイッチを見て笑う。サンドイッチは完成したので、サラダの準備に取り掛かる。そこにインターホンの音が響いた。
慌てて佐助は玄関に向かい、小さく扉を開ける。そこにいたのは二人の人物。白い髪の儚い雰囲気の美少女と、茶色の髪の気の強そうな美少女。どちらもセーラー服姿である。
「おはよう、元就サン半兵衛サン」
佐助は二人を家に入れる為にドアを大きく開けた。

「二人とも朝ごはん食べてきた?」
ココアを差し出しながら、佐助が二人に尋ねる。
「少しだけなら」
答えたのは半兵衛で、
「………」
無言を貫くのは元就。
「元就サン、食べないと体調崩すよ?」
「貴様には関係ないだろう」
優しく問えば、厳しい回答が返ってくる。しかし、佐助は苦笑いを浮かべるだけ。
「毛利の旦那の性格は、転生しても変わらないね」
「君の性格もだと思うけれど」
微笑みながら言うのは、前世では豊臣の軍師をしていた竹中半兵衛だ。彼女はゆったりとした仕草でココアに手を伸ばしている。
そんな半兵衛を横目で見遣った元就は、ココアに手を伸ばしながら一言。
「幸は?」
「今シャワー浴びてるよ。
さっきランニングから帰ってきたから」
佐助の答えが台所から返ってくる。
「相も変わらず、鍛練が好きなんだね」
ふと半兵衛が微笑みながら呟いた。
「…記憶はないはずなのにね」
「…記憶は無くとも、性格は変わらぬのだろう。魂は同じなのだから」
答えるのは元就。
前世での知将という呼び名に相応しい、知的な目で半兵衛を見つめる。
「我等がそうだったように」
知将と軍師はしばし目を合わせていた。

そこに、声が一つ飛び込んでくる。
「元就殿、半兵衛殿来られていたのでありますか!?」
濡れた亜麻色の髪を垂らしたあどけない顔の少女である。元就と半兵衛と同じセーラー服を身につけている。
「あー!髪乾かしてきてっていっつも言ってるじゃん!!」
ほら制服濡れてる、と言いながら佐助はドライヤーを取りに洗面所へ。
「ほら、座って」
すぐに戻ってきた佐助は、少女を椅子に座らせる。程なく、彼の手にしたドライヤーから温風が溢れ出る。佐助は慣れた手つきで、少女の髪に風をあてた
「熱かったら言ってね」
「大丈夫でござる!!」
温風の中で、すぐに少女の髪は乾いた。
「じゃあすぐにご飯持ってくるから、ちょっと待ってて」
パタパタと台所へ向かう佐助の背中に、半兵衛が声をかける。
「佐助君ふと思ったんだけど君って」
佐助が振り返る。
「オカンだよね」
「オカンだな」
「なんで二人してハモるの!!?」
俺様悲しくなってきた。
よよよ、と泣き崩れる真似をする佐助。その手には大皿が抱えられている。すぐに、きょとんとした幸の前にサンドイッチの山ができた。
「はい、俺様特製スペシャルサンド。よく噛んで食べましょう」
「いただきますでござる!!」
きちんと手を合わせて一礼。その手をサンドイッチに伸ばして食べ始めた。
半兵衛はその姿を見て呟く。
「いつ見ても清々しい食べっぷりだね」
幸はサンドイッチを握ったまま答える。
「佐助の作るご飯が美味しいのです!!」
「嬉しい事言ってくれるねぇ。俺様大感激ー。はい、サラダ」
どこかのレストランの店員のように、器用に3つのサラダを持った佐助が笑う。
「こっちの2つは元就サンと半兵衛サンのね」
「僕は家で食べてきたよ?」
疑問を投げる半兵衛に、佐助は笑顔で答える。
「バケットだけなんて、栄養が偏ってるよ。健康な体はバランスの良い食事から」
言いながら、サラダを二人の前に置く。
「元就サンも。全部じゃなくて良いから、ちょっとは食べること!!」
じゃあ俺様着替えてくる、と言って佐助は背を向けた。

「お節介だな」
元就は観念してサラダに手をつけながら、呟く。その横で、半兵衛はレタスを口に運んでいる。
「佐助は困っている人間を放って置けないのでござるよ」
言いながら、幸は残り半分程になったサンドイッチの山に手を伸ばす。
「まあ、だからこそ僕達は会えたようなものだけど」
その口元に緩やかな笑みを浮かべながら、半兵衛。その横では、元就がトマトと戦っている。どうやらトマトが嫌いであるらしい。
「合縁奇縁。縁は異なもの、粋なものと言う物にござるか」
「そうだね」
柔らかく首肯して半兵衛。
その縁には前世からの縁も含まれるのかな、と思いながら。

「ほら早く!!入学二日目で、遅刻なんて笑えないよ!!」
「半兵衛殿、急がずとも5分で中学校には着きまするぞ?」
「幸、お前の足を基準にするな」
「ほら旦那、鍵忘れてるよ」
どたばたと音を立てて、家を出る準備をする4人。
「準備万端にござる!!」
幸の声と鍵の掛かる音を最後に、武田家は静寂に包まれた。

萌黄いづ







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