今の俺の機嫌は最悪だ。何故入学3日目にして、呼び出しを受けているのか。理由は簡単。銀色の髪と青い目が、3年生の気に障ったからだ。
(…と言っても、コレ染めてるわけじゃねえしなぁ)
母親が外国人だった為で、遺伝によるものである。だが彼らはそんな事情にも関わらず声を荒げている。
ああ面倒臭い。だから、相手にわざと一発殴られた。こうしておけば、口実ができる。んで、殴ってきた奴の腹をお礼に殴り返してやったら、すっげー飛んで。…そっか、人間って飛べるのか。そんなくだらない事を考えてたら、さっき殴りとばした方角から声がして。ああ、さっきの奴が言ってた呼び出しされたもう一人か、って声から判断して。だからそっちに向かった。
「一人相手に人数使うなんざ、三流の証拠だぜ?」
タイマンなら、いつでも大歓迎だがな。笑う。そして、もう一人の一年生を見た。
橙の髪の少年を。

「鬼の旦那……?」
銀髪。青い右目。眼帯。
猿飛佐助は、どこからどう見ても前世で会った長曾我部元親としか思えない姿の男を見る。そうしたら目が合った。
真田の忍。
口が動いた。その言葉は、声になっていなかったが佐助は聞こえたような気がした。だから。
「久しぶりだね、鬼の旦那」
笑って、そう言った。すると元親も笑って応えた。
「…ああ久しぶりだな。猿」
あれ、今何かむかっとした。
「ちょっと今猿って言った!?」
「あぁ?猿飛だから猿だろ」
「違うの!!今は武田なの!!」
会話を交わす。そこに400年なんて時代の壁はなかった。
三年生の声が聞こえた。こいつら知り合いだったのか?関係ねえよ、まとめてやっちまえ。

二人肩を並べて敵を見据える。
「そういや、鬼の旦那と共闘って初めて?」
「いや一回だけあるな。あん時は真田もいたがな」
「懐かしー」
「まあ400年前の話だ」
二人で笑う。彼らは戦を思い出す。二人の手に、甲賀手裏剣も碇鎗もないが戦友と敵はいた。

「いやー、懐かしいねぇ」
「まさかお前に会うとはな」
「何それ。嬉しいくせにー」
あの後、三年生を残らずぶちのめして、元親と佐助は校舎に向かって歩いていた。
「…だけどお前の方が先に元就と会ってるとはなぁ」
どこで会ったんだ?と元親に尋ねられる。
「小学校の帰り道で高校生相手に喧嘩してる子達がいてさ」
助太刀してみたら、毛利の旦那と竹中の旦那だった。
答えれば鬼の旦那の頬が引き攣る。当然だろう。さらにその喧嘩を始めたのは、毛利の旦那達の方らしい。
「……嫌な出会いだな」
先に会わなくて良かった、という心の声が聞こえた気がした。
「…後は誰と会ったんだ?」
「えっと、武田の大将でしょ。軍神に、あと真田の大将」
「幸村もいるのか」
うん、と答えれば鬼の旦那の顔に笑みが浮かんだ。共闘した事もあるように、彼らは仲が良かった。でも。
「…今の真田の大将に、前世の記憶は無いよ」
そう呟けば、鬼の旦那の瞳が曇る。前世の記憶が無いという事は、鬼の旦那の事を覚えていないという事で。だけど鬼の旦那は笑っていた。悲しさと喜びを滲ませて。
「…そっか。その方が良いかもな」
「……うん」
鬼の旦那は俺達よりも長生きしたらしい。毛利の旦那からそう聞いてる。だから、俺達の事情も知ってるんだろう。
一瞬「あの人」の事を思い出しかけて、慌てて頭から追い出した。

昇降口をくぐる。
毛利の旦那が会いたがっていた人を連れて。



薄藤色の黄昏








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