端的に言ってしまえば。つまるところ歌とは、声であり音である。 びりり、と何かを感じた気がした。テレビを流れているのは何の変哲もない映像で。 流れている音楽が、存在を異様なほどに主張していた。男性のテノールが、ぐらぐらと脳を焼く。電波で発されているにも関わらず、凜と響いていた。 CMが終わると、勝呂は携帯を開いて、ある男に電話をかける。きっかり三回の呼び出し音の後に繋がった。 「おう、志摩か」 「あれー、坊やないですか。どないしはったんです?」 相も変わらず脳天気さを滲ませている声が、用件を問うてくる。用件は一つしかない。 「携帯電話のCMのドラム、やっとんのお前やろ」 テノールの後ろで聞こえたドラムは、間違いなくこの幼なじみによるものだ。 「よーわかりましたね。確かにそうですけど」 「ボーカルの奴に逢わせてもらえんか」 電話の向こうで、志摩がにやけるのがわかった。 「何の用です?」 「わかっとんのやろ」 勝呂は画面越しの音を思い出す。ドラムとボーカル以外は大した事がなかった音を。 「ベース、やったるわ」 勝呂が逢った男は、奥村燐と名乗った。 「えっと、俺になんの用ですか?」 海を秘めたかのような、青い瞳と目があう。その瞳には困惑。 「敬語やなくてええ」 「こー見えて、坊は奥村君とタメやさかいに」 隣に座っている志摩が説明すると、燐があからさまに驚いた。勝呂的には、燐が大学生の年齢である事に驚いた。 「携帯電話のCMで、歌っとったよな?」 「ああ、はい…うん」 慌てて敬語からタメ口に直した。どう話が展開するのか、よくわかっていないらしい。 「あんな。ベースメンバーとして協力させて欲しいんや」 「坊のベースの腕は、俺が保証しますわ」 「…えっと……?」 理解できなかったのか、燐が首を傾げる。それを見て、今まで黙っていた燐の隣の女が口を開く。 「つまりアンタは、ベースとしてバックバンドに入ってくれるってワケ?」 「そうや」 その会話を聞いて、燐が理解したようだ。 「アタシとしては、喜ばしい事だわ。前の曲はドラム以外が下手過ぎて、カバーするのが大変だったから」 何故この女が苦労したのかがわからない。そう思っていると女が顔をこちらに向けた。 「自己紹介が遅れたわね。作曲家、神木出雲よ」 神木出雲といえば、最近有名になった作曲家だ。有名ドラマのメインテーマを手掛けたという話を聞いた事がある。 「…せやけど。ドラムとベースだけが上手くても、やっぱり奥村君の声を引き出せるかは微妙やないですか?」 志摩が疑問を口にした。確かにもう一人、ギターくらいは上手い人間が欲しい。そう思ったところで、燐がそろそろと手を挙げた。 「あのさ…俺の弟がギターやってて、そこそこ有名らしいんだけど」 「初耳なんやけど」 「誰よ?」 志摩と出雲に尋ねられ、燐が意を決しその名前を告げる。 「…奥村、雪男」 超有名ギタリストの名を。 ------ 自己満足歌手パロディです。 カノ嘘に触発された…!! |