誰か来る なんか妙なやつが来る だれかくる
ざっ…ぱきっ、緑がふかぶかと居する山。樹齢何百年と歳を重ねて木目を増やし太くなった木々。緑濃い葉をつけたそれは霧の隙間から日の光を得て、天まで枝を伸ばそうと今もなお成長し続ける。その緑生い茂る間、に男がいた。
「…何か今いたな」
その男は顔を上に向ける。緑と土色で埋め尽くされたその場所で、「ただの白」とも「銀に近い白」ともいえる異色の髪はよく映えた。青年は重たげな木箱を背負い、些か(イササカ)獣道とも言えぬところで足を留めていた。その男に手を引かれ同時に足を止めた者もいるようで。この険しい山道は大人が歩いてやっと、背丈の小さい山道に不慣れな子供が歩を進めれば、いとも容易く足が取られてしまいそうなものなのだが。しかし、その男は確かに幼い手を引き連れていた。幼い手を。
「猿かね」
手を繋いでいる子は男の腰ほどの背丈。朧げな目をしていて、その顔立ちや髪の長さからすると女子だろう。
「さる…」
何も映さぬような眼(マナコ)で天を見上げ、そのままごにょっと言葉を紡ぐと首を傾げた。さらりと髪が揺れる、遠くでなにか橙色したものが蠢いた気がした。
「そう…猿かねってな」
さらさらとした艶やかな黒髪をくしゃっと撫でる。そして、ひと山ふた山向こうまで続きそうな緑に目を細めた。
「…しかし、緑が異様なくらい鮮やかな場所だな……ここは、」
緑犇(ヒシ)めく山のなか
道無き道を辿りつつ
目指すは山の山の奥
人里離れた一軒家。
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