彼が壊れていたなんて、とっくに気付いていたはずなのに。




「黒子っち……、ねえ、黒子っち、」
「いっ……ぁ!……き、きせっ、くん……!」
「かわいい、ほんと、かわいいっスよ、黒子っち……」



神聖な部室でこんな行為に及んでいるのはなぜだろう。そんなのボクにはわからない。唯一つわかるのはこれが一方的で強引な行為であることで、それから、黄瀬君は本当にボクのことが好きだったらしい。
ほんとに好きなんス、黒子っちのことが。そう笑う黄瀬君は、いつもと全く同じように見えた。黄瀬君がボクのことを好きだ何だというのはいつものことであり、普段からベタベタとくっつかれていたこともあり、もはや冗談と受け取る他なかったんだと思う。だからボクは素直に、もう結構ですよ、なんて、言葉を言ってしまった。冗談だと思ってた。単に友達の領域で、そういう意味で黄瀬君がボクのことを好きだと思っていたから。だけど違った、突然黄瀬君はボクをロッカーへと押し付けると、なんでそんなこと言うんスか、と、先ほどまでは感じられない物恐ろしげな表情をしていた。そんな黄瀬君に思わず怯んでいると、そのまま黄瀬君はボクを強引に犯したのだ。
痛かった、苦しかった、怖かった、全ての感覚が余計なものに思えて、いっそ壊れてしまえば楽になれるのではと考えるほどだ。仕切りなしにボクの名前を呼び続ける黄瀬君は、恐ろしいというよりは、熱に浮かされいるような表情をしていた。一時の迷いでボクにこんなことをしているのかと思ったけれど、それもやっぱり違うようだ。



「あ、あ!…っ、あぅあ!」
「黒子っち、気持ちいいの?オレに無理矢理されてるのに?」



ぐちぐちと音を立てながら、黄瀬君がボクの中に無理に押し込んだものを動かす。内臓を直接ぐちゃぐちゃにされるような感覚に吐き気を覚えるけれど、頭で考えることとは反対に、喘ぎのような呻き声のような、そんな声がひっきりなしに出ていた。声が掠れて喉が痛い。けれど結合部はそれ以上に激痛だった。黄瀬君が動くたびに痛みは増す。快感なんてそんな文字はない、だけど黄瀬君は、まるで壊れてしまったかのように名前を呼ぶ。違う、もう彼は壊れてしまっているのだろう。



「ねえ、黒子っち、また黒子っちの中に出していい?」
「やっ……です!もう、っあ、ああああっ!」


ごめんね。黄瀬君はそう呟くと、もう何度目かわからない精をボクの中に出した。そしてボク自身も何度目かわかない絶頂を迎え、びくびくと身体が震える。荒い呼吸が繰り返される薄暗い部室で、ようやく黄瀬君のものがボクの中から抜かれた。内壁からずるずると抜かれている感触がまた気持ち悪く、それ以上に目に入ってくる光景が嫌で仕方なかった。自分と黄瀬君の精液と、それから赤い血。それは間違いなく自分のものであり、混ざり合う色が余計に気持ち悪い。


「オレ、は、こんなにすきなのに……」


今日初めて黄瀬君に優しく抱きとめられる。本当なら離してくださいと押しのけれやりたいところだけど、残念ながらそんな抵抗をする力はボクには残っていなかった。最も残っていれば、こんなふうには最初からなっていなかっただろう。
黄瀬君は今にも泣き出してしまいそうな、小さな子供のような表情をしていた。なんて情けない顔をしているんですか、と、声を出したいけれど、喉が痛くてその言葉は声にはならなそうだ。最中の黄瀬君は、本能で動かされるままにボクを犯していた。ボクに遠慮なんて見せず、いやだと、痛いと、何度も言ったのに、やめようとはしてくれなかった。
率直に言えば、黄瀬君が憎い。男なのに、自分の貞操を捨てる前に処女を失うなんてどういうことだ。と、そういうことを言っているんじゃない。無理矢理男に辱めを受けた自分が情けないのだ。なんで黄瀬君が泣くんだ、泣きたいのは、ボクの方なのに。いや、正しく言えば、ボクは黄瀬君に抱かれている時に無力にも泣いてしまっていたけれど。


「ねえ、なんで、黒子っちはオレのこと、選んでくれないんスか……?」


噎せ返るような精液の匂いに、お昼に食べたサンドイッチが出てきそうになる。選ぶも選ばないも、そもそもボクの光は青峰君だ。だからと言ってボクは青峰君が好きなわけじゃないし、そもそもボクは普通に女の子が好きな一般的な男子なんだけれど。


「青峰っちにもこういうこと、させてるんスよね?」
「ち、ちがっ…………」
「だってそうでしょ?じゃなきゃあの青峰っちがまともに練習なんか出るわけないっスよ」


ああ、まただ。そうボクは思い、未だに抱き締められている身体を黄瀬君に預ける。もう自分で身体を起こしておくことも気だるい。
黄瀬君は、きっとボクと青峰君が特別な関係に至っているのだと勘違いしている。真実はそうでない、単にボクが青峰君に練習へ出るように説得しただけだし、こんなことをされたのだって初めてだ。なんで黄瀬君がそんなどうしようもない誤解をしているかはわからない。多分、ボクのことが好きだから、余計におかしなところで敏感になっているんだろうと思っておく。


「もう、さ、全部捨ててオレだけにしなよ」


まるで悪魔の囁きのようだった。薄暗い、精液と、それから微量の血の、おかしな匂いが立ち込めている部室。つい数時間前までは、みんなでわいわいと賑わっていた場所とは思えない。今のボクにとっては、もう、地獄に近い場所だ。そしてそこにたたずむ黄瀬君は、ボクを無理矢理凌辱し、数時間前まで黒子っち黒子っちと犬のような人懐っこい笑顔を浮かべていた同一人物とは思えない。どこを見ているのか、何を考えているのかがさっぱりわからないのだ。
言葉の意図も掴めなければ、ボクに無理矢理こんなことをして、黄瀬君がどうしたいのかもわからない。こんなことをされても、ボクは黄瀬君のことを好きになんてならない。むしろ、嫌われる可能性の方が高いということに、彼は気付いていないのだろうか。

全てを捨てて、彼だけに委ねる。それがいったいどんなことなのか、ボクには理解できない。。前に読んだ文学小説にそんな話があったようななかったような、どっちにしろ不道理で背徳的なものに違いはなかった。だけど彼は壊れてしまっている。キセキの世代で、あらゆる力をコピーしていた、まねっこ、なんて言われていた黄瀬涼太はもう居ないんだと思う。


「いいよね、黒子っち」


頬笑む黄瀬君を見て、ボクはもう何も言う気になれなかった。反応だってしたくない、もう身体の一部でも動かすことが面倒だった。痛くて、苦しくて、その感覚をもう二度と味わわなくて済むなら、もう黄瀬君に全てを委ねてしまった方が楽だろうと思った。かく言うボクも、きっともう壊れてしまっていたんだろう。



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