初めに言っておくと、これは夢の話だ。なぜかというと、ボクは既に中学を卒業し、誠凜高校の生徒の一員であるからだ。それなのにボクは今、紛れもなく帝光中学の体育館にいて、現在キセキの世代と呼ばれている、元チームメイトであるみんなと一緒にバスケをしていた。


「テツー!パスパスー!!」
「あっ青峰っちずるい!黒子っち!こっちにパスするっスよ!」
「お前らこのミニゲームの趣旨を全く理解していないのだよ!」


ボクの手には一つのバスケットボールがあった。この光景に見覚えはない、そう言えば嘘になるかもしれない。この体育館でバスケをするのは見飽きるほどの回数だけど、こんなミニゲームをした覚えはなかった。もしかすれば覚えていないだけかもしれないけど、でも今、そんなことはどうだっていい。
きっとこの頃はまだ、みんな自身の才能を見出して居ないのだと思う。みんなで一丸となって勝利を手にする、そんな理念の下、バスケをしていたあの頃だと思う。これは夢なんだ、そう思うものの、ふと周りをも渡す。青峰君は笑いながらバスケをしている。黄瀬君はそんな青峰君に煽られて、負けじとプレーをしている。緑間君はそんな二人に呆れている。紫原君は赤司君を何かを話しながらお菓子を食べている。赤司君はそんな紫原君を注意しながら、ボクらのプレーにアドバイスをしている。ボクは、ボールを持って、帝光中学バスケ部の一員として、バスケをしていた。


「テツ?早くボール回せよ!」


青峰君が、笑っている。心の底からバスケを楽しんでいる。違う、もうこんな青峰君はいない。夢なんだ。そうは思うけれど、ボクは青峰君にパスをし、コートを走った。青峰君に限った話じゃない。みんな普通のバスケでは飽き足らなくなって、自分のバスケを見出して、渇望し、絶望し、倦怠し、何かしら大切な何かを失っていく。勝利だけを機械的に求める、そんなバスケを、してしまう。


「あーーもう!また入ったっス!!」
「お前は青峰だけを見過ぎなのだよ」


悔しがる黄瀬君に緑間君がアドバイスをする。赤司君もその通りだと言っている。未だに夢現がはっきりしないボクは立ち尽くしていると、青峰君にナイスパス!と言われた。ずっと聞いていなかった青峰君の、その言葉。その笑顔。みんながまだ活き活きとバスケを楽しんでいる。ずっとこんな時間が続くのだと、そう思っていた。
あれ、そう言えばボクは、何を悩んでいたんだろう。みんながシュートを決めて、ボクがパスをして、みんなでバスケをして、おかしなことなんて何一つないじゃないか。




「つっかれたー……」
「ねえねえ黒子っち!これからマジバ行かないっスか?」
「黄瀬君のおごりでなら行きます」


それからボクらは相変わらず勝ち続けていた。練習試合でも公式戦でも、どんなに不条理な試合であれボクらは何者にも勝っていた。今日も試合の帰りであり、みんなでマジバに行くところだった。
青峰君は最近自分の才能を開花させ、誰よりも絶好調だった。黄瀬君も青峰君に次ぎ、赤司君に言われるままの練習をこなして何かを見つけ出せそうだと言っている。緑間君のシュートはなかなか的確なものになっているし、紫原君のディフェンスだって相変わらず。赤司君だって自分の練習を怠ることなく、それでいてボクらに指示も出してくれている。それぞれのバスケをこれから伸ばし続けることで、きっともっと素晴らしいものを作り上げることができるのだろう。
マジバに行く途中、ボクは公園に目を留めた。いつもその公園に人が、居るのだ。決まってボクと目が合って、だけどその人に見覚えなんてない。そのはずなのに、その人を見てるとどうしようもなく寂しさを覚えて、だけどなぜか怖くて声を掛けられなかった。だけどボクは今日、どうしてかその人に、声をかけた。


「あの、」
「なあ、今、楽しいか?」


その声を聞いて、思わず身体が強張る。聞き覚えがあるようで無い様な声、でも、思いだせないけれど、とても大切な存在だって気がする。


「た、楽しいですけど………」
「もうすぐ帝光のバスケは独走的なモノになって、お前はそれに絶望し、バスケ部をやめる」


ボクが大好きなバスケをやめる、そんな言葉が信じられなくて、思わずその人に掴みかかりそうになる。顔がぼやけてよく見えない、だけど、その人は不思議と悲しそうな顔をしている気がした。


「で、でもボクは………」
「だけどお前は高校に入ってオレと出会って、元チームメイトでありながらキセキの世代を倒すと決めた」


手が震え、足が震え、まるで条件反射のように身体が震える。ボクは、この人の名前を、知っている。でも、この人の名前を呼んでしまったら、ボクは全てを失ってしまう気がする。失う覚悟が出来ていないのに、新しいものを受け入れる覚悟なんて、出来ているわけもないのに。


「お前なら、思い出せるだろ?」
「っ……か、かが」
「テツヤ」


その声に咄嗟に顔をあげる。赤司君、だけじゃない。他のみんなも、いつの間にか公園の入口に立って、ボクを寂しげに見つめていた。そしてボクは、全てを思い出す。


「テツヤ、こっちに戻ってくるんだ。お前の居場所はどこかわかるだろう?」
「黒ちん、みんなでバスケするんでしょー?」
「黒子、なにをぼさっとしているのだよ」
「テツ、お前が居ないと俺らのバスケは成り立たない」
「黒子っち、オレたちとバスケしたかったんスよね?」


みんなの声が呪文のように脳裏に響く。震えは泊まったけれど、今度はぼろぼろと涙が溢れた。そうだ、ボクは心のどこかでみんなと、帝光バスケ部のみんなと、バスケをしたいと思っていた。退部するときだって、考えて考えて、何回も泣きそうになって、苦渋の決断の末だった。
だけどボクは、今ボクが居るべきところは、ここじゃないんだ。


「………黒子」


ボクの傍でボールを手にしていた人は、いつの間にか笑っていた。さっきまでの心配そうな表情はどこへ行ったのか、そんな違和感に思わず笑ってしまう。ボールを受け取ると、ボクは涙を拭い、みんなに向かって言った。


「ボクは、みなさんを倒しに行きます。火神君と二人で、必ず」


火神君は、にっと笑っている。ボクも釣られて笑うと、周囲が眩しくなった。これが夢であっても、またいつか、みんなで楽しくバスケを出来る日がくるとボクは信じている。その時は、ボクと火神君で必ずみんなに負けを認めさせて、日本一になって、それで。




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