だから校内でのスキンシップは節度を守ってくださいと、ボクは言ったのに。なのに赤司君はボクの約束を先日、安易にも破ってみせた。しかもボク自身、彼にうまく流されてしまったのだから情けない。そしてボクは今現在、その一瞬の判断の過ちを悔いることとなっているのである。きっとこれが、因果応報と言うのだろう。


「なんで黒子っちが赤司っちと付き合ってるんスか!?」
「テツ!黙ってないでなんか言え!」


ひどく興奮している黄瀬君と青峰君は、この調子でさっきからボクを問い詰め続けていた。緑間君は下らないと言ってボクを見捨てて練習へ、紫原君は赤司君が居ない隙にとお菓子を買いに、そして赤司君はなぜか今日に限って部活に遅刻をしている。その為ボク一人でこの二人の相手をしなければならないため、先ほどから黙秘していた。


『オレこの前見たんスよ!赤司っちと黒子っちがその、キスしてるとこ!』


全ては黄瀬君のこの一言から始まった次第だ。いつものボクであれば見間違いですとあしらうところだけれど、あの日はキスだけでは済まなかった。だからこそ赤司君との行為が鮮明にフラッシュバックしてしまい、顔が赤くなっているという異変に気付いた青峰君が顔色を変え、黄瀬君は絶望的と言わんばかりの表情をし、そして最後にはボクと赤司君の関係がばれてしまった。
ボクと赤司君が付き合い始めたのはいつごろか、正直よく覚えていない。だけど、気が付けば目で彼のことを追っていて、同じく赤司君もボクのことが気になっていたとのこと。断られればキッパリ諦める、そんな気持ちで赤司君に告白すると、あろうことか赤司君はボクと付き合ってくれたのだ。ボクのことを、好きだと言ってくれたのだ。それが嬉しくて、でも赤司君の立場もあるし、ボクらが付き合っていることは内緒で、ひっそりと二人で会うことが多かった。なのによりによって黄瀬君に、しかもあの日の出来事を目撃されるなんてもう消えてしまいたかった。
そんな自己嫌悪に陥る中、不意に青峰君の手がボクの腕をぐっと掴んだ。


「おい!テツ!」
「っ、あの」
「今日はやけに騒がしいね」


黙秘を続けるボクに痺れを切らせたのか、今にも殴りそうな勢いの青峰君が動きを止めた。そしてボクらの視線の先にいたのは──赤司君だった。


「あ、赤司君………」
「体育館の外まで大輝の声が聞こえていた、みっともないからやめろ。あとテツヤから手を放せ」


キッと赤司君が青峰君を睨むと、青峰君は物言いたさげな表情をしつつもボクの腕を放した。そんな様子を見て、シュートの練習をしていた緑間君はほっと胸を撫で下ろしたようだった。そして赤司君は溜め息をつきながらボクらの様子を見ると、腕を組んで言う。


「話は大体聞かせてもらったよ」
「じゃ、じゃあ!赤司っちと黒子っちは本当に」
「付き合ってるよ」


問題でもあるのか?そう赤司君が言うと、青峰君も黄瀬君も黙り込んでしまった。そう言われればそうなのだけど、やっぱり二人は、納得していないのだと思う。過去の話になるけれど、青峰君にも黄瀬君にも、ボクは告白されていた。好きだと、付き合ってほしいと。当初ボクは二人が冗談でそんなことを言っているのかと思い、あまり茶化さないでくださいと優しく言った記憶がある。だけど今思えば、やっぱり二人とも本当にボクのことが好きだったのかもしれないと、少しだけ思う。
だけど今のボクには赤司君が居る。ずっと隣にいたいと思えるし、彼の居ない生活なんて考えたくもない。それくらい大切で、愛おしい存在なのだ。腕を組んで起っている赤司君の横に立つと、ボクは二人に向けてこう言った。


「黙っていてすみません。ボクから告白して、赤司君とはずいぶん前からお付き合いしてました」


その言葉を聞いて、黄瀬君が裏返った声で何かを言っていた。よく聞き取れなかったけど。青峰君はと言えば、一向に読みとれない表情だった。ボクはそのまま赤司君との色んな経緯を二人に伝える。けれどやっぱり、青峰君は、納得していないようだった。


「っ、そうか、テツは、赤司を選んだのな」


そう皮肉っぽく言う。赤司君は已然と平然とした表情であり、そのタイミングで帰ってきてしまった紫原くんは、黄瀬君から事情を聞いて驚いているようだった。剣幕な雰囲気が漂うボクらの周辺、紫原君が口を開いた。


「ねえ、赤ちんは黒ちんと付き合ってて幸せ?」
「ああ、幸せだ」
「そっかあーならいいやー」


オレも赤ちんのこと好きだけど、幸せならいいよ。そう紫原くんは笑っていた。そしてそれを聞いた青峰君は、さっさと練習するぞ!と、そう声を張り上げていた。黄瀬君はボクに抱きついてそれでもオレは黒子っちが好きっスよ!なんて言っている。赤司君が目を光らせていたのは一応、黙っておくことにしよう。


「とりあえず青峰黄瀬、お前たちは外周50だ」
「ええ!?なんスかそれ!」
「それ理不尽って言うんだぜ赤司……」


なにかと文句を言いながらも、二人はグラウンドへと歩いていった。紫原君は買ってきたであろうお菓子を食べつつ、緑間君はそんな紫原君にこぼさないで食べるのだよ、なんていつも通りの言葉を口にしていた。


「テツヤ、大変だっただろう?」
「いえ、赤司君が来てくれたので結果オーライです」
「しかしまさかばれるとはな……」


隠していたのに、なんて赤司君がぶつぶつと言葉を述べていた。赤司君の啓発な行動が招いた結果です。因果応報です。そう素直に言えたらどんなに楽だろうかとボクは思った。
けれど今回ばれたのがバスケ部のみんなだったから、よかったとは言えないけれど、不幸中の幸いだとは思う。これがもしクラスの誰かだったとしたら、なんて考えるのも嫌だった。


「でもおかげで部活中は隠す必要はなさそうだな」
「え!?」


どうやらボクにとっての因果応報の意味を成すのは、これからのようだった。



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