黒子がうちに泊まりにきた。付き合ってる同士なだけあって、最初のころうちに遊びに来ていたのとは違った雰囲気で、だけどそんな違和感はものの数時間で消え去った。いつも通りにバスケのDVDを見たり、飯を食ったり、特に特別視するような出来事もなかった。だけど寝る前、基本黒子はオレのシャツとかを適当に寝巻にしていて、それが今まで以上に酷なものだった。
付き合う前までは、男として反応せざる得ないそんな黒子の、シャツと短パンという格好を見ても、相手は男なんだと言い聞かせてなんとか凌いできた。しかし付き合っている以上、恋愛感情を持っている以上はそういうわけにはいかない。オレの身体はどこまでも素直であり、黒子はどこまでもマイペースだった。


「おーい……黒子……」


そんなふうに名前を呼んでも、いつものようにはいという彼の正しい返事は聞こえてこない。返ってくるのはすぴすぴという健康的な寝息だけで、時計を見るとまだ22時過ぎだった。そしてオレは深いため息を吐いた。確かに今日の練習はきつかったけれど、明日は休みだからという理由でオレの家に来たのに、そんなに簡単に寝られてしまうというのは想定外だった。
付き合っている二人が一緒に居て、しかも家には二人しかいない。ともなれば、することは一つなんじゃないかとオレは思うのだ。しかもオレのこんな葛藤を余所に、黒子はオレの傍に擦り寄ってきて、刻一刻と寝息を立てていた。シャツの隙間から見える鎖骨が妙にやらしく見えて、っていうか黒子ってほんとに肌白いよな。


「寝てるお前が悪いんだからな………」


聞いていないであろう黒子にそう言うと、隠されることなく曝け出されている鎖骨に吸い付く。黒子が眉間にしわを寄せるものの、起きる様子は特にない。口を離すと、そこには赤い痕が出来ていた。それを指でなぞり、なんとも言えない優越感に浸る。白い肌に赤い痕、それはまさしくこいつがオレのものだという証拠であり、きっとそう簡単には消えないだろう。


「………」


寝苦しいのかさっきのせいか、んー、なんて声を出す黒子を見ていたら、正直な話で勃ってしまったわけである。元々今日はするつもりでいたし、キスマークをつけると言う、そんな滅多にしないことをしたこともあり、まあ当然と言えば当然の結果だろう。
恋人が目の前に居るのに、自分で慰める行為をしなければならない日がくると言うことがなんとも情けなくて、だけどこのままにしておくのもどうかと思い、仕方ない仕方ないと自分に言い聞かせてズボンに手を掛けた。隠すことなく起っているそれを見て、自分の手を添える。自分でするのなんて久々で、適当な間隔で手を動かす。男の生理現象なんてものはどこまでも素直らしく、そんな稚拙な動きでも充分な刺激となった。


「……は、あ、……っ!」


目の前に黒子が居るのに自分でするなんて、オレは一体何をしているんだろう。一瞬客観的な目で自分を見てしまうものの、欲望に忠実な手は止まらなかった。すでに先走りでぬるぬるとしている感覚が、また気持ちよくて。寝てる黒子で抜いたなんてことが本人に知れたらどうなるのだろう。最低ですと一喝されるか否や、なんて考えていると、ふとした瞬間ベッドのスプリングがギシッと音を立て、ぱちっと黒子が目を開ける。そしてオレは、そのまま、今までしていたままの恰好から驚きで動けなくなっていた。


「く、黒子…………」
「…………なに、してるんですか?」


眠そうな顔をしていたのに、オレのそれを見た瞬間に怪訝そうな表情に一変する。今の時間から帰ります、なんてことは黒子に限ってないだろうけど、別の部屋で寝てくださいとでも言われるのだろうか。そもそもここ、オレの家なんだけど。


「……ごめん」


黒子がブチ切れると本気で怖いことを知っているが故、とりあえず素直に謝っておく。すると黒子は下を俯き、何かを言っているようだった。けれどその声が小さくてなんと言っているのかまではわからない。すると黒子が突然顔を上げ、殴られでもするのかと思って目を瞑ると、なにを思ったか黒子は起ち上がっているオレのそれを掴んだ。そして突然のことに息を飲む。


「な、なななにしてんだよ!」
「すごいぬるぬるしてて気持ち悪いです」
「じゃあ離せよ!」
「でもボクで抜いてたんですよね?」


寝てしまってすみませんでした。そう黒子は逆にオレに謝ると、ゆるゆると手を動かし始める。その微妙な刺激がよくわからない感覚をオレに与えてきて、何も言えなくなってしまった。っていうかこいつ、自分で抜かれる自覚あったのか。そう思い、黒子の顔を見ると、何を考えているのかはよくわからなかった。


「寝てるボクを見てるだけでこんなになるもんなんですか?」
「………お前が際どい恰好で寝てるからだろ」
「………そうですか」


そう呟くと、黒子はオレのそれからぱっと手を放す。散々微妙な刺激を与えるだけ与えられて離されたそれは、達することも無く、恐らく生殺しというのはこういうことを言うんだろうとオレは痛感した。黒子はやっぱり、内心怒っているのだろう。オレはそういう確信を持つ。でもさすがにこれはひどい。
なんとも言えない雰囲気の中、黒子がオレのTシャツの首の部分を掴んで抱き寄せられた。なにが起きたのかわからず、だけど黒子の顔が少しだけ赤くなっていて、余計にいろいろひどくなっている気がした。


「あ、あの、火神君が一人でそういうことをしていたのは、寝てしまったボクにも責任が、あります」
「………あ、うん…」
「だから、その、今日は………火神君の好きなこと、して、いいです」


視線を泳がせながら、けれど顔を真っ赤にしている黒子はそう言った。ほんとに?とオレが聞くと、一回だけですからね!と少しだけ大きい声で言った。普段黒子が自分からそんなことを言う機会が少ないだけあって、貴重すぎるその言動に思わず夢なのではと疑う。実はオレも黒子と一緒に寝ていた、なんてオチかもしれないと思って頬を抓ると、確かな痛みがある。一部始終を見ていた黒子は、現実ですよと嫌味っぽく言っている。そしてその様子があまりにもかわいくて、抱き寄せられるままに抱きしめ返した。悲しいことにオレのそれはおっ立てられているままだけど、黒子は何も言うまいといった具合だった。
実は黒子も溜まってたのか、と、シャツに手を掛けながら言うと、本当に君はバカですねと頬に一発軽いパンチをもらった。とりあえず今日は、黒子もオレも色んな意味で恥ずかしい目に合っているわけだし、プラスマイナスゼロってことで。自分の中で謎の等号式を作り上げ、一向に顔の赤い黒子にキスをした。


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