「だーかーらー!火神っちはずるいって言ってるんス!!」 声を荒げてそう言うと、火神っちは興味なさげにハンバーガーに食らい付きながらそうかそうかと相槌を打つ。だいたいそれ何個目っスか、なんてツッコミを入れたかったけど、きっと覚えてないとかそんな返事しかしないだろうと思って言わないでおいた。モデルのオレからしてみれば、そこまで食べようとも思わないし、見ているだけで胸やけを起こしそうだ。 なんでよりによってオレと火神っちが一緒に居るかと言えば、それはこの不公平な争奪戦に批判をしに来たのだ。オレと火神っちの共通点、それは何かと言えば、バスケが得意と言うのもあるけれど、心の底から黒子っちのことが好きだということもあった。オレが執拗に黒子っちにくっついたり名前を呼んだり、そんな積極的なアピールをしていた高校入学からしばらく時間が経った日のこと。突然火神っちに二人きりになりたいなんて申し出をされ、殴られるのではと喧嘩覚悟で話し合いを承諾した。 『オレは黒子が好きだ』 それは突然の告発であり、同時に宣戦布告でもあった。火神っちの挑発的な視線は、どこかのだれかさんを沸々と連想させるもので、思わず笑ってしまったことをよく覚えている。 『オレも黒子っちのこと、大好きっスよ?』 みっともないほどの対抗心で、そう言って見せた。すると火神っちは、知ってるに決まってんだろとこれまた笑う。それからオレたちはバスケでも、恋愛でさえもライバルになってしまったのだ。自分のことにどこまでも鈍感な黒子っちは、オレたちの露骨なアピール(火神っちは知らないっスけど)に気付くことも無く、ただただうまくあしらわれていた。 そして今日、不公平と言う一点をオレはひたすらに主張していた。 「火神っちは高校でずっと一緒じゃないっスか!クラスも!部活も!」 「そりゃーな」 「じゃあ登下校くらいオレに譲ってくれてもいいじゃないっスか!」 「だから嫌だって言ってんだろ!」 さっきからこの先に会話が進まない一向だ。黒子っちと帰ろうとすれば大概火神っちがいて、学校も一緒で、それはいくらなんでもずるいとオレは思った。けれど、火神っちの言い分からすれば、中学時代はお前も黒子とずっと一緒に居たんだからおあいこだろうとのこと。それもそうだけど、オレがバスケ部に入ったのは中二の時だし、黒子っちは途中でバスケ部を辞めてしまった。だからとてもおあいことは思えないのだけど、互いに自分だけが知っている黒子っちがいる、ということだけは同じだと思う。 「もー……じゃあ今週の日曜、オレ黒子っちとデートしてもいいっスね?」 「あ、オレが約束してる」 何個目かわからないハンバーガーに手を伸ばしている火神っちがさらりとそんなことを言い、携帯を開いて黒子っちにメールを送ろうとしていたオレはその状態で固まっていた。ああもう!これのどこが公平なんスか!不公平以外の何物でもない!オレは心底そう思い、もういっそ今からでも黒子っちのことを迎えに行こう。そう思ってカバンに手を掛けた。 「火神君に黄瀬君、ですか?」 「く、黒子!?」 「黒子っち!!」 二人してテーブルに手をついて驚くと、黒子っちのほうがびっくりしているようで、なんですかと少し震えた声で言っていた。 え、なにこれ、もしかしなくても黒子っちに誤解されてる?なんて不安が頭を過った。自分の光と、中学時代の親友が一緒に居る、しかも内緒で、なんて、なんかちょっと怪しいじゃないっスか!自分の中でそんな考えがぐるぐると回り、早く黒子っちに何か言わないと。そう思って火神っちを見ると、彼は意外にも平然としているようだった。 「日直の仕事もう終わったのか?」 「はい。二人の姿が見えたので、一応来てみました」 「じゃあほら、ここ座れよ」 「あ!」 ちゃっかり自分の横に座らせようとしている火神っちを見て、短くそんな声が出る。しかし黒子っちはオレのそんな声に反応することなく、ありがとうございますと優しく頬笑んで座っていた。大量にあったハンバーガーの一つを黒子っちに火神っちが渡すと、これまた黒子っちは良い笑顔を見せていた。内心言えば、もちろん羨ましい。けど、これはまさか、火神っちの方に黒子っちの心が傾いているのでは。 何とぞ女の子にはモテていたし、片思いというもの自体初めてでどうしたらいいのかよくわからなかった。だからとにかく、オレが思う全てを黒子っちにぶつけているのだけど、どうしてこううまくいかないんだろう。目の前で火神っちと黒子っちが仲良く話している姿を見ていると、じわじわを涙ぐみそうになる。 「あの、黄瀬君」 「…………はいっス」 「今週の日曜日、空いてますか?」 思わず耳を疑う。そして同様に火神っちも驚いた顔をしていて、この中で平然とした表情をしているのは黒子っちだけだった。空いてるっスけど、と返すと、黒子っちが言う。 「その日、火神君とバスケするんです。だからよかったら黄瀬君も如何ですか?」 「も、もちろん行くっスよ!」 黒子っちの手を握りながらそう笑って返す。極端に不機嫌になっている火神っちに思わず笑って返すと、間の黒子っちだけは不思議そうな顔をしていた。やっぱり黒子っちは優しいっスね、そんなとこ、大好きなんスけど。そう改めて体感すると、今すぐにバスケの練習がしたかった。久々に黒子っちとバスケが出来るのだから、どうせなら格好のいいところを見せたい。そんで火神っちにも勝って、黒子っちに関心してほしい!今のオレにはそんな考えしか無くて、とにかく日曜日が楽しみで仕方なかった。絶対に、火神っちは負けない! |