(02の赤司視点)
バッシュを履こうと思っているとこちらに誰かが来る気配がして隣を見た。黄瀬の妹が歩いてくるのだ。おぼんにドリンクとタオルをのせて。いつもは桃井がやっていたが、今日は桃井じゃなくて律子か。しかし彼女は黄瀬曰く男性恐怖症。青峰あたりが危ないな。
彼女が来たから「ありがとう」と言ってドリンクを受け取ろうと思ったら彼女は硬直した。面白い子だなあ、と思って苦笑した。「ドリンクとタオルだろ?」と言うと彼女ははっとして渡してくれた「ありがとう」と言って受け取り、スタメンにぐらい挨拶しておくべきだろう、と一緒に回る事にした。
「メンバーにぐらい挨拶しとくべきかな。一緒に配ろう。大勢いるのは怖い?」
「はい、なるべく少しずつでお願いします」
「じゃあ紫原から行こうか」
紫原は近くにいたし、彼女を連れて歩く。
「新しいマネージャーだ。黄瀬の妹で律子っていう名前」
「律子ちんかー」
背の高さに唖然とする律子が少し震えている気がした。
「お礼」
そういって紫原からチョコレートを貰った律子は少しだけ笑顔に見えた。男性に対し笑顔を見せたのは初めてのような気がして少しむっとした。
次は緑間を提案した。黄瀬と青峰が相変わらず激しい練習をしているからだ。
「ちょっと変なやつだけど」
不思議そうな顔をしていたがすぐにわかったらしい。緑間のところにつくと彼女は自ら言葉を発した。
「あの、ドリンクと、タオル、です」
「そこに置いておいてくれ」
「何でお皿があんなところにあるんですか?」
「緑間は朝の占いのラッキーアイテムを持ち歩いてるんだよ」
男性に対し興味を持ったのは初めてのような気がして再びむっとした。だから紹介するのをやめた。
最後は黄瀬と青峰のところに行った。彼らのところに行くとすぐに黄瀬がきた。妹思いだな、と感じる。
「ちょうどよかったッスー」
「こちら!新しいマネージャーで俺の妹の律子ッス!妹って言っても双子でしてー」
「黄瀬、うるさいよ」
青峰に紹介しなくてもいい、と思った。
「青峰、黄瀬。ドリンクとタオルだ」
「へえ、おまえが黄瀬の妹?似てるじゃねえか、律子って名前?ふーん、よろしく頼むな」
そういって律子の頭に手をのせようとしてきた青峰。彼女は咄嗟のことで「ひっ」と引きつった声をだした。彼女が青峰から逃げるように倒れそうになったらからすぐに受け止めたが、彼女が男の手から逃げた事に気づき、手をすぐにはなした。彼女は目をぎゅっと瞑っている。
「うちの妹に触らないでくださいッス」
「大丈夫だよ」
そう声をかけると彼女は目をそっと開けた。
「黄瀬、律子が調子悪いみたいだから僕は保健室に連れて行く。青峰には黄瀬から話してやれ。他の人は練習」
彼女に視線が集まってるみたいだからそう言って床に散らばったチョコレートを集めた。彼女に渡すと、少し触れた手から震えが伝わってきた。

「大丈夫かい?」
「ごめんなさい」
「こうなることを予想していたんだけど、青峰に言わなかった僕の責任でもある。近くにいたのに、悪かったね」
「辞めようかな」
ぽろりと言った言葉に咄嗟に立ち上がった。頭の中がぐるぐるして、彼女に手を差し出した。
「辞める必要なんてない、律子は僕の手を握れるだろう?」
「よかったら、僕に話してくれないかな、過去に何が起こったのか。思い出したくないことなら、話さなくていい」
「わたしの過去……」
彼女がとても悲しそうな顔をして、本当は知りたかったのだけど、彼女から出てきた言葉は言えません、だった。深く訊いてはいけない、と思い「そっか」としか言えなかった。
体育館のほうに黄瀬が見えたから彼女に行く事を促した。
「ほら、そろそろ行こう。黄瀬が心配してる」
黄瀬が彼女を抱きしめる腕は優しくて、彼女はそれに縋るようにしていて、少しだけ羨ましかった。俺が彼女に差し出したてが握られる事はなかった。

握られなかった僕の手
(僕にはまだ信頼が足りないみたいだ)
20120815
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