「えと、さつきちゃん、ドリンクとタオルを、配るの?私が?私じゃないとダメ?何で私なの?」
「律子ちゃんに頑張ってほしいの!私もスコアとかやらなきゃいけないし!ね?お願い!」
さつきちゃんは可愛く顔の前で手を合わせている。ウインクして、女の子らしくて本当に可愛い。私の男嫌いをなおす手伝い、その第一弾がおぼんにのせたドリンクとタオルを配る作業らしい。でもこの学校バスケ部多いし、みんな背、大きいし。だからって練習してるおにいちゃんに手伝ってもらうわけにもいかず、私はしぶしぶかごを手にとった。
「配るのは五人でいいから!今から私が一人に渡すから見ててね!」
そういって、誰もいない方向に走っていったと思ったら、なんか回りに比べると背の低い影が薄い男の子にドリンクとタオルを渡して「頑張ってね!」と言って帰ってきた。
「今の人は誰ですか」
「私の愛しの黒子くん!かっこいいでしょ?」
「ええ、まあ」
「大丈夫大丈夫!この部活のキセキの世代に配ればいいだけだから!体育館にいるキセキ以外は今から全員外周だし、誰に渡せばいいかは解るよ!」
「何でその人たちだけ走りに行かないんですか!」
「そりゃあ他の練習しなきゃいけないし、まあ大丈夫よ。私もここにいるから何かあったら言ってよ!ほら、残ったでしょ、いつものメンバー。この人たちくらい覚えといたほうがいいよ!今ディフェンスやってるのが黄瀬くんで、オフェンスが青峰くん。向こうのコートでシュート練習してるのが緑間くんで、背が高くてお菓子食べてるのが紫原くん。最後にバッシュ磨いてるのが赤司くん。黒子くんは走りに行ったからいないけど」
二人しか知らないんですけど。ていうかお菓子食べてるの何なの。
「ほーら!行った行った!」
「うう、頑張ります」
とりあえずキャプテンの赤司くんから行こう、と歩く。赤司くんのところに着くと、赤司くんは座ったまま「ありがとう」と言われて、え、何言ってるのこの人、と思ってたら赤司くんは苦笑した。「ドリンクとタオルだろ?」ああそっか、と渡すと、再び「ありがとう」と笑った。
「メンバーにぐらい挨拶しとくべきかな。一緒に配ろう」
赤司くんは硬直する私に優しい笑顔で言った。この人は男子だけどいい人かもしれない、と思った。
「大勢いるのは怖い?」
「はい、なるべく少しずつでお願いします」
そういうと、「じゃあ紫原から行こうか」と私の隣を歩いてくれた。
「新しいマネージャーだ。黄瀬の妹で律子っていう名前」
「律子ちんかー」
めっちゃ背の高い紫原くんはドリンクとタオルをおぼんからとっておぼんの上にチョコレートを三個置いた。
「お礼」
なんだか紫原くん怖いけどいい人かもしれない。
次に向かったのは緑間君。赤司くんは「ちょっと変なやつだけど」と笑った。その意味が解ったのは近付いてからだった。緑間くんの足元には焼き物のお皿が置いてあった。
「あの、ドリンクと、タオル、です」
消え入りそうな声で言うと、「そこに置いておいてくれ」と言ってきた。だからお皿の上に置こうとしたが赤司くんにとめられて横に置いておいた。
「何でお皿があんなところにあるんですか?」
「緑間は朝の占いのラッキーアイテムを持ち歩いてるんだよ」
あんなに大きな高級そうなお皿を?と疑問に思ったがあまり関わらなかったので良かったとする。ていうか赤司くん、私の紹介しなかったよね?という新たな疑問が生まれたが、忘れたのだろう、と自己解釈。
最後はおにいちゃんと青峰くんという方だ。私達がそこに行った頃、ちょうど休憩に入ったところみたいで、「ちょうどよかったッスー」とお兄ちゃんが近付いてきた。
「こちら!新しいマネージャーで俺の妹の律子ッス!妹って言っても双子でしてー」
「黄瀬、うるさいよ」
赤司くんの制止。ちょっと怖い赤司くんのオーラ。
「青峰、黄瀬。ドリンクとタオルだ」
赤司くんがそう言うと、二人は紙コップとタオルをとった。無言だ。赤司くんとは怖い人なのだろうか。
「へえ、おまえが黄瀬の妹?似てるじゃねえか、律子って名前?ふーん、よろしく頼むな」
そういって頭に手をのせようとしてきた青峰くん。私は咄嗟のことで「ひっ」と引きつった声をだしてしまった。しりもちをつく、と思ったら誰かに背中を受け止められゆっくり床に座った。手はすぐに離された。目が開けられない。
「うちの妹に触らないでくださいッス」
「大丈夫だよ」という優しげな声がして目を開けると赤司くんが私の横に座っていた。お兄ちゃんが青峰の手を掴んでいる。さつきちゃんが向こうのほうから走ってくる。
紫原くんと緑間くんもこっちを見ていて、恥ずかしくなった。青峰くんは驚いた顔で私とお兄ちゃんの顔を見ていて、赤司くんが溜息をついた。
「黄瀬、律子が調子悪いみたいだから僕は保健室に連れて行く。青峰には黄瀬から話してやれ。他の人は練習」
床に散らばったチョコレートを赤司くんは集めて、私に渡してくれた。
お兄ちゃんは気まずそうな顔をしていて、私は赤司くんについていく。
やっちゃったなあ、と赤司くんに着いて行きながら溜息を吐いた。

「大丈夫かい?」
保健室に行く予定だったが変更して学校内の運動場側にあるベンチに座った。靴を履き替えたからか、足の裏に溜まった変な汗は乾いたみたい。
「ごめんなさい」
ベンチに体操座りをした私。ローファーが脱げた。
「こうなることを予想していたんだけど、青峰に言わなかった僕の責任でもある。近くにいたのに、悪かったね」
「辞めようかな」
ぽろりと言った言葉に赤司くんは立ち上がった。差し出してくる手。
「辞める必要なんてない、律子は僕の手を握れるだろう?」
ほんわか柔らかくて、私に関わってくる男の人とは違う。優しいような、それでも少し怪しい笑顔。
「よかったら、僕に話してくれないかな、過去に何が起こったのか。思い出したくないことなら、話さなくていい」
「わたしの過去……」
考えるだけで鳥肌が立つ。少し戸惑ったが、赤司くんの笑顔が「言えません」という答えを望んでないように見えた。しかし口から出た言葉は「言えません」だった。赤司くんは頷いて、「そっか」と言った。
「ほら、そろそろ行こう。黄瀬が心配してる」
体育館の方を見るとお兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんは走ってくると私を抱きしめてくれた。やっぱりお兄ちゃんのこと、大好きだなあ。

ドリンクラリーの失敗
20120815
スタンプラリー的な
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -