家に着くとお兄ちゃんが玄関で待っていてくれて、お帰り、と一言わたしに微笑んだ。わたしもただいま、と笑う。赤司くんの隣からお兄ちゃんの前へ行こうとすると、ぐいっと腕をつかまれてそのまま彼の腕の中に収納されてしまった。一瞬なにがおこったのかわからなかったけど制服越しに感じる温度に顔を真っ赤にした。
「あか、赤司く、」
これが他の男の人なら鳥肌をたてて恐れ、泣き叫んでいた事だろう。だけど、何故かこの温度にわたしは安心するのだ。どきどきして、苦しいけど、彼の腕の中はとてもあたたかいのだ。
「赤司っち!それは、」
お兄ちゃんが急いでこっちに駆け寄ろうとするも、一瞬何か感じたのか顔を強張らせて立ち止まった。
「黄瀬、僕達は付き合うことになった。律子は僕の彼女だ」
「えっ!?そ、そんな、律子っち?」
おどおどしてわたしを見る頼りないお兄ちゃん。わたしは恥ずかしいけれど躊躇うことなく頷いた。お兄ちゃん、わたしね、赤司くんのこと好きみたいなの。目で訴えるとお兄ちゃんは本当に目をまんまるにして、でも嬉しそうに笑った。そして、泣きはじめた。
「う、嬉しいっス!律子っち、よかったっスね!」
「お、お兄ちゃん!泣かないでよ恥ずかしい」
「律子、黄瀬はね、本当に律子のことを心配していたんだ。許してやろう」
そっと頭をなでられた。
「え……赤司くんはわたしをかわいそうだと思って付き合ってくれたの…?」
「違う。僕は律子を愛してる。だから、付き合うんだ。同情で付き合うことなんて僕には出来ない」
愛してる、その言葉にひきかけた朱をまた頬に滲ませた。
「赤司く、」
「律子、僕は愛してるよ。だから心配しないで、僕を愛してくれないか。黄瀬、勿論認めてくれるよね?」
「勿論っス!でも律子っちが悲しむところだけは見たくないっス…そんなことになったら例え赤司っちでも、俺、」
「解ってるよ、大丈夫だ。律子の悲しむところは僕も見たくない」
彼はそういうとおでこに一つキスを落としてわたしを温もりの枷から開放させた。それでお兄ちゃんのもとまでいって別れを告げる。また明日、学校で。

それから黙って玄関をくぐり、リビングに入るなりお兄ちゃんに抱きしめられた。
「お兄ちゃん?」
吃驚してお兄ちゃんを見るも、彼は本当に泣きそうになりながら震えていた。
「本当によかったっス、幸せにしてもらうんスよ!」
ああ、こんなにも心配をかけていたのかと思うと胸のあたりがずきりと痛んだ。
「うん!」
だから安心させるようににっこり笑った。お兄ちゃんも安心したようにわたしをはなしてにっこり笑った。ありがとう、お兄ちゃん。

日常がガラリと変わる予感がした。
男の人はまだ苦手だけど、あなたのこころにさえ触れることが出来れば、なんて考えながら目を閉じる。
侵食された心はきっと、一生このままなのだろう。

優遇
(あなたのこころのなかで優遇され続けるわたしはずるいですか)
(わたしのこころのなかで優遇され続けるあなたはとてもずるいです)
20121209
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