控え室に二人きりになって、それから彼女の手を握ってみた。彼女から驚いたり恐れたりしている様子が見られない。だから思い切って訊こうと思った。
「なんで男の人、ダメなんだ?」
びくり、彼女の肩が揺れた。黄瀬と同じ色の綺麗な瞳が揺らいで、目にはいっぱいの涙を溜めていた。どうしたらいいのか解らないのだろう。小さく微笑んで「大丈夫、つけこんだりしない」と言うと、彼女はこくこく頷いた。
「でもね、軽蔑されちゃうかも、赤司くんに」
「軽蔑したりなんかしないよ。というかできない。赤司くん、いい人だから」
「僕がいい人?」
「うん。とっても優しい」
「へえ」
彼女はぽつりぽつりと話し始めた。彼女の中の傷を、少しずつ僕に明かしていく。
小学生の頃親の勧めで兄とともに子役として売り出したこと。
その中で同級生にすごいと言われるが、悪口も絶えなかった事。
そして男子が苦手になった理由。
「小学生って馬鹿だからさ。わたしをグラビアモデルって呼んで服脱がそうとしてきた人がいたの」
衝撃だった。
「でもそんな中で助けてくれたのがお兄ちゃん。男の子たちをとっちめたんだけど、どうしてもそのときが私の中でまだ怖くて。モデルもやめて…」
ふふっと笑った。彼女はとても寂しそうだった。
彼女は内容を大分はしょって、笑いながら話しているけれど、きっととても怖かったのだろう。男性恐怖症。きっとそれ以外にももっと嫌な男の話が聞かされたのだろう。
深い深い傷を、僕なんかが埋めてやることが出来るのだろうか。
彼女を握っていた手の力を弱めると同時に、彼女の手に力がこもった。
「今まで怖かったけどね、でもね」
視線が交わって、絡み付いて、離せない。
「赤司くんは怖くない、ううん、それどころか、赤司くんといるとどきどきして、でも安心できて」
つばを飲む。
「わたし、赤司くんのこと好きみたい」
赤らめた頬が艶かしかった。

脅かす唐衣
20121207
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