おしぼりを作るべく洗面所に行く。赤司くんは「このくらい三軍にやらせればいい」と言っていたけれど、マネージャーだしこのくらいやらせて、と頼んだら渋々承知してくれた。ぎゅうっと絞ってバケツに入れていく。ちょこちょこ氷も入れたりして、温くならないようにする。
「あの」
いきなり後ろから声がかけられた。くるりと振り向くとそこには他校の女バスの生徒が2、3人立っていて、「なんですか」と訊くと「モデルの黄瀬くんの妹さんですよね?」と迫られた。ああ、お兄ちゃんのことか、と思いながら「はい」と微笑むと、「サインがほしいのですけど」とより迫られた。
「ごめんなさい、お兄ちゃん、今はバスケの試合中だからそういうのは分けていて…。わたしから言ってももらえないと思うから直接お願いしてもらっていいかしら」
彼女はこっくり頷いた。それから暫くすると、今度は別の女の子たちに絡まれた。
お兄ちゃんと同じ髪の色は自慢だけどすごく目立つ。すぐに「黄瀬涼太」の妹ということがばれる。嫌じゃないけれど、その、別の女の子たちにはとっても嫌な絡まれ方をされた。
「あんた黄瀬涼太の妹なの?」
上から下までじっくり、舐めるように見られて鼻で笑われた。
「遺伝子とかむかつくよね」
数人にずらりと囲まれて、洗い終わったおしぼりをいれたバケツを持つ手が痺れてくる。
ぎゅうっと袖を掴まれていて、顔をぐいっと近付けられていて、どうにも逃げられない。むかつく、うざい、って何度も言われた。
でもそんなの馴れっこで、心に傷なんかつかなかったけれど、試合の始まる時間まであとちょっとしかない。スコア係なのにどうしよう、と俯くと女の子たちはわたしの心が折れたのかと思って大笑いを始めた。
「律子ちゃん!試合始まっちゃうよ!」
急に聞こえた声にはっと顔を上げるとそこには息を切らしたさつきちゃんが立っていた。
「慣れない事だから時間がかかったんだよね?ごめんね!手伝ってあげられなくて…ほら、早く行って!赤司くん心配してたよ!」
「え、さつきちゃん」
強い力でぐいぐい引っ張られてお手洗いを出る。ほら早く行って、と背中を押されて会場に急ぐ。さつきちゃんはお手洗いに用事があるからってわたしは一人で会場に向かわされた。
「遅くなってごめんなさい」
ベンチに座ってミーティングを終えたばかりの赤司くんに謝ると「大丈夫だよ」と笑ってくれた。
「何かあったの?」
「えっと、ちょっと知らない子に話しかけられて」
「男?女?」
「女です」
「律子は女の子も苦手?」
どうだろう、と苦笑いを浮かべる。
「裏で何考えてるか、少し怖いだけです」
へえ、と赤司くんは面白そうに言って、「今度女の子の怖い話聞かせてほしいな」とバケツからおしぼりを一つとった。

「わたしの律子ちゃんに絡まないでくれる?」
ぎっと、先ほど彼女ともめていた女の子を睨む。ちっとも可愛くない顔でわたしを嘲笑った。乳が大きいだけの女って。私のことを言うのはどうでもいいけれど、どうしても彼女にあんな態度をとった彼女たちが許せなかった。
「心が不細工なあなたたちに彼女を笑う資格なんてない、嫉妬なんて見苦しいだけよ」
はあ?と声を荒げる彼女。わたしの襟元に掴みかかってきた。だから反射的に背負い投げをかけてしまう。伊達にダイちゃんと幼馴染をやってきたわけじゃない。女相手ならわたし、敵なしだもの。地面で何が起こったのか理解できない女と、立ったまま怯える女。どうせこの程度でしかないのね。背負い投げをした際落ちたらしい、彼女の学生証を拾い上げる。評判の悪い高校の生徒らしい。
「これ、うちのキャプテンに渡しておくから」
「あんた、どこの学校の、」
「帝光学園バスケ部マネージャー桃井さつき。覚えておいてね」
最後はにっこり笑ってやった。見下すみたいに。

「律子っち!心配したんスよ!」
「ごめんねお兄ちゃん」
ぎゅうっと犬みたいに、見えない尻尾を振りながら抱きつくお兄ちゃん。今から試合だっていうのに涙目で。
「なんかあったんスか?話してくれないと心配で…」
「お兄ちゃん、大丈夫だよ。大袈裟なんだから」
ふふっと笑って髪をポニーテールにした。スコアブックを受け取ってベンチにつく。

機雷、嫌い
20121110
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