「美樹っちおはようっス!」
そう言って教室に入ってきた黄瀬くんの手には一つの紙袋。
「おはよう、黄瀬くん」
「言われてたファッション誌持ってきたっスよ」
そんな風にニコニコ笑う黄瀬くんの手から紙袋を受け取る。中には十冊ぐらいの雑誌が詰め込んであった。一冊とってみると表紙が黄瀬くんで、しかも雑誌の名前に聞き覚えがあってびっくりした。
「この雑誌聞いた事ある!表紙って、黄瀬くんはすごいんだね!」
きらきら目を輝かせて言えば黄瀬くんは「それほどでもないっスよー!」とページをめくって自分のところを見せた。今年の流行っぽいそれは黄瀬くんにとても似合っていて、アクセサリーもお洒落で世界の違う人だなあって感じた。部屋や病室に篭りきりだった私に新しい世界を見せてくれた、そんな気分だ。
「なんだそれ」
そこにお兄ちゃんがやってきた。黄瀬くんはおにいちゃんが苦手だから少しびくっとしたけどすぐに「美樹っちが欲しいって言ってくれたんで持ってきたっス。青峰っち、持って帰ってあげてくださいっス」と言った。お兄ちゃんは嫌そうな顔をしたけれど私が「お願い、お兄ちゃん」と頼むと「いいぜ」と笑ってくれた。お兄ちゃんは優しい。
「黄瀬くん、ありがとう。宝物にするね?」
「いえいえ、飽きたら捨ててくださいっス。あ、次のも雑誌俺の家に届いたら持ってくるっスね!」
にこにこ笑う黄瀬くんがすごくかっこよかった。
「あ、そうだ」
私はかばんに手を突っ込んでガサガサし、彼にあるものを渡した。
「これ、昨日作ったクッキーなんだけどお礼」
「うわあ嬉いっす!食べるのがもったいない…ありがとうっス!」
「昨日は寝とけっつったのに、ったく、」
お兄ちゃんは額に手を当てて溜息。お兄ちゃんの分もあるよ、と言って出したら「ありがとな」と頭をなでてくれた。お兄ちゃんの手が好きな私は嬉しかった。
泣いて喜ぶ黄瀬くんに大袈裟だなあ、と思いながら笑いかけると黄瀬くんも私に笑いかけてくれた。
こんな幸せが末長く続きますように。

人魚姫の宝物
20120818
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -