お兄ちゃんが怒ったところをわたしは見たことがない。
わたしが学校を早退して黄瀬くんのところに行った時だって怒らなかった。早退したのをきいてすぐにお兄ちゃんも学校を早退したらしい。家に帰ってもわたしはいないし病院に行ってもわたしはいない。黄瀬くんの家で携帯電話が鳴ったとき、すごく心配そうに今どこにいるかきいてきて黄瀬くんのところというと黄瀬くんに電話をかわれって。わたしには怒らず黄瀬くんを怒って、で、黄瀬くんの家までわたしを迎えに来た。お兄ちゃんはとても心配そうに笑って帰ろうって行ったけれど一発黄瀬くんを叩いた。頭を軽くべしっと。でもわたしには怒らなかった。わたしがさぼったと打ち明けても、美樹は優しいから、と仕方無さそうに笑った。
わたしはお兄ちゃんに怒られたこともない。叱られたことも、ない。兄妹喧嘩なんてしたこともない。

季節が冬になるにつれて学校に行けなくなったわたしは家ですごすほうが多くなった。入院するほどでもないらしい。小学生の頃はこの時期ずっと入院していたけれど「ちょっと身体が強くなってる、いい友達が出来たんだね」って先生が言ってた。わたしが入院しなくてもいいのは多分、友達もそうだけど、恋人の黄瀬くんのおかげもあると思う。
勉強も一人でしたらそれなりにできるわたしにお母さんもお父さんも家庭教師をつけなかった。だから昼間は勉強をしたりお菓子を作ったり、とだらだらすごす。お兄ちゃんが宿題を持ってきてくれるから先生もあまりこない。基本的に一人なのだ。
だから黄瀬くんがきてくるのがとても楽しみで、今日だってあと三十分で来てくれると思うとどきどきが止まらない。
綺麗に焼けたアップルパイを切り分けながら携帯を見ると新着メール一件。「あと20分で行くから」という簡単な言葉とかわいい絵文字。待ってる、と返信して、本当に二十分ぴったりに来た。リビングに上がってもらう。今日は青峰っちに体育の授業中に、と話しながらアップルパイを美味しそうにほおばる黄瀬くん。あ、と何かを思いついたようにフォークを一度置いた。
「美樹っち、クリスマス空いてる?」
「え、うん。空いてるよ多分」
「じゃあクリスマスパーティーしよう」
「え?」
「ほら、黒子っちと桃っちと青峰っちと…いつもみたいに!」
どう?と首をかしげる黄瀬くん。
「クリスマスパーティー、やりたい、な」
「決まりっスね!」
楽しみだな、何しよう、と笑う黄瀬くんの笑顔がいつもより眩しかった。

さむいあたたかい
20130518
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