お兄ちゃんが黄瀬くんを殴るかもしれない、と一瞬頭に過ぎった。確かにお兄ちゃんはいい人だけど、怒ると何をするかわからないのだ。小学校の時とかは普通にさつきちゃんを殴ってたし、とにかく私が止めないと、と不安になったのだ。黄瀬くんと会うのは悲しくなるけれど、黄瀬くんが痛い思いをするのはどうしても嫌だ。それにちゃんとはっきり訊かないといけない。黄瀬くんはそんなことする人とは思えないけれど、もしかしたらという不安が次から次へとこみ上げてくる。昨日にかぎってメールも電話もないものだから、本当に嫌われちゃったのかな。
初恋は実らない。という言葉をむかしさつきちゃんに教えてもらった。さつきちゃんの初恋の相手は、女子に興味も無く自分を友達としてしか見てくれない、と嘆いていた。だから初恋は実らなかった、黒子くんに恋に落ちた。そう苦笑いしていた時のさつきちゃんにかける言葉を私は知らなかった。
わたしの初恋はお兄ちゃんなのだろう。わたしはおにいちゃん以外の歳の近い男の人を知らなかったのだから。でも身内はノーカウントとさつきちゃんが言ったから黄瀬くんなのかもしれない。
初恋がお兄ちゃんでありますように。
お兄ちゃんには失礼だけど、歩道を並んで歩きながらそんなお願いを神様にした。

黄瀬くんが休んだ。
お仕事でもなければさぼったでもない、なんでも寝不足で風邪をひいたらしい。
一時間目の体育が終わるのを待つのは退屈だ。黄瀬くんがお休みだから黒子くんもいない。
空席をぼうっと見つめて、目を一度伏せて今度はグラウンドを見た。
そういえばグラウンドから黄瀬くんは手を振ってくれたんだっけ、わたしがそれににっこり笑って振り替えしたんだっけ。
着信も受信メールもない携帯はポケットの中で静かに眠っている。
「青峰さん、自習?」
急に先生が入ってくるものだから吃驚して目を大きく見開いてしまった。
「あ、あの先生!」
「どうしたの、落ち着いて」
「体調が優れないので早退させていただいてもよろしいでしょうか」
「え、ええいいけれど、それなら親御さんか青峰くんを呼ばないと…」
「大丈夫です!家まで帰れますから!お願いします」
ぺこりと頭を下げると「わかった、きをつけてね」と言って教室を出た。わたしはバックに机の中の教科書やらノートを詰め込んで学校を飛び出した。

黄瀬くんの家は近所である。だいたいの場所を説明されていたのですぐに見つけることが出来た。いきなり手ぶらで行くのは迷惑だと考えて買ってきたスポーツドリンクを意識しながらインターフォンを押した。
反応は無い。誰もいないのかな、帰ろうかな。二回押して、三分ほど反応が無かったので帰ることにした。玄関の門に手をかけたところで空から声が降ってくる。
「美樹ちゃん!?」
「き、黄瀬くん!」
二階のひとつの窓からカーテンとともに身を乗り出した黄瀬くんと目が合った。
「今玄関開けるからあがって!」
そういって窓から消えた黄瀬くん。
そういえばわたしは何から話せばいいのだろうか。

ぷかり、浮かんで、のせられて
20130503
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