暫くは学校で挨拶程度、帰りも別々だけど、たまに放課後の教室でお話したり、家に帰ってメールをした。
でも、暫く経った10月のある日、わたしは聞きたくないことを聞いてしまった。
「隣のクラスの、ほら、あの女子、いま廊下歩いてる…あの子黄瀬くんの彼女なんだって」
わたしが本を読んでいる後ろで話す女の子たちの話に目を丸くした。廊下を歩いてる女の子はわたしよりずっと煌びやかで、イマドキ、という言葉がとても似合う女の子である。
本を読むことも忘れてぼうっとその女の子を眺めた。
「黄瀬くんの、彼女…」
ぼそりと呟くも、多分誰にも聞こえていない。

「美樹っち、よかったら一緒にお話しないっスか?」
放課後遅く、20時を回ろうとしていた。いつの間にか教室に来て、わたしの方にふらりとやってきた黄瀬くん。いっつもみたいな笑顔でにっこり笑う。
教室にはわたしと彼以外に誰もいない。ガランとした教室、わたしと彼、でも目を合わせることも、笑う事も何故か出来ない。自分で笑顔をつくれない。先ほど聞いた「黄瀬くんの彼女」が気になって仕方がない。でも、きけない。少しの無言の後にわたしは声を振り絞って「あの、今日はお兄ちゃんと約束があって」精一杯の嘘をついた。黄瀬くんは残念、といわんばかりに眉を八の字にして「そうっスか……じゃあまた今度」と笑った。急いで鞄を持って教室を出る。ドアを閉めながら「ばいばい」と言った。
早足で向かった先は、バスケ部の練習する体育館。
どうしよう、涙が止まらない。
「美樹さん!?」
わたしに一番に気付いたのは黒子くん。その後に気付いたお兄ちゃん。それと二人を見ていたさつきちゃん。
「美樹?どうしたんだよ、」
慌ててこっちに来てわたしの背中を撫でるお兄ちゃんの胸に顔をうずめて、自分でもわからないくらいに泣いた。

薄氷心
20130319
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