あれから、わたしは黄瀬くんの中でいっぱい泣いて、時間のこともあったし、さつきちゃんに連れられて電車に揺られた。さつきちゃんは「よかったね、わたしも嬉しい!でもね、気をつけないとね」と言っていたが、意味がよくわからなかった。
それからしばらく経って退院し、学校へ行くと、それと同じ日に黄瀬くんも久し振りの登校をした。教室につくなり、彼がやってきて前の席に座った。暫くメールだけだったから新鮮だ。あい服に身を包んでいて、もう秋だと感じさせられた。
「あのね、美樹っち。俺たちがお付き合いしてる事、他の人に伏せておいたほうがいいと思うんスけど、それにあまり学校では喋らないほうが…」
「そうだね、黄瀬くん人気者だから」
「そうじゃなくって、その、まあそうなんスけど…」
もごもごしながら黄瀬くんは申し訳無さそうに頭を下げた。
だんだん教室に人も増え、冬に公開される映画の情報を聞きつけたクラスメイトが黄瀬くんをぐるりと囲んだ。わたしはぽつりと孤立してしまって、仕方がないから本でも読もう、と鞄を膝の上に置く。
「美樹さん」
「わ、わあっ!」
驚きのあまり鞄を落としかけた。隣に立っている黒子くん。驚かせてしまって申し訳ありません、と微笑んだ。こちらこそごめんなさい、と謝ると、みんなそうなので、と遠くを見る目で言った。言ってはいけない事を言った気持ちで、もっと申し訳なくなった。「ところで」と黒子くんが話し始めたところで気まずさが途切れる。
「黄瀬くんとお付き合いすることになったそうで…おめでとうございます」
「い、いえいえ!でもみんなには内緒にしようってさっき約束したんです」
「ええ、僕もそれが良いと思います」
「あの、なんで隠したほうがいいのかな、黄瀬くんが人気者って言うのもわかるし、週刊誌も解るけど、わたしよく解らなくて」
「それは美樹さんを守りたいからだと思いますよ」
「え…?」
「黄瀬くんがもし美樹さんとお付き合いしている事をみんなに公表すれば、確かに週刊誌なんかもありますけど、それよりも先に学校で孤立し、何かかしらの嫌がらせを受けることになると思います。黄瀬くんのことを好きだから、黄瀬くんと別れてほしいから、むかつくからなどといった暴言は必ず受けるでしょう」
「そうなの…?」
「はい、美樹さんはあまり、お付き合いするという事情を知らないと思いますがそういうものです。みんなが嫉妬したりすれば、あることないこと、いっぱい言われると思います。そのことから美樹さんを守りたいんですよ」
「黄瀬くん…」
人に囲まれてにこにこ笑う黄瀬くんに、そんなことまで考えてもらっているのか、と遠くから感謝した。

物理的遠距離
20130313
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