一人になってすぐにさつきちゃんが来た。それで「あの子、一緒に撮影してる女優さんよ」と教えてくれた。あんなふうに綺麗な子が黄瀬くんの相手をしているのかと思うと、少し前からあったぐるぐるした胸のつっかえが大きくなったような気がした。なんだろう、これ。さつきちゃんに説明すると、綺麗なピンク色の目をよりいっそう大きくして、そのあとはふふっといつものように笑った。大丈夫、みんな最初はそうだから。さつきちゃんは私の手をひきながらそういった。どうやらこれは「ジェラシー」というやつらしい。でもその単語をきくのは初めてで、あとでお兄ちゃんに訊いてみようと思った。
撮影現場には見たことのないような機材がいっぱいで、見学の人もたくさんいた。ロープのなかには黄瀬くんと、あの女優さんが楽しそうに話していた。
「はじまるね」
黄瀬くんと女優さんがじゃぶじゃぶ海に入るのを息を呑んで見つめる。黄瀬くんはいままでに見せたことの無いような真剣な眼差しで女優さんを抱きしめ、額にキスをした。世界がとまったような感覚に陥る。周りの騒音が聞こえない。
「美樹ちゃん?」
それから少しの間、わたしは固まったままだった。何も聞こえず、ただただ心臓の音だけが早くなるような気がして。さつきちゃんに身体を揺さぶられて我にかえると、泣いていた。
「ごめんね美樹ちゃん…」
誘ってごめん、と謝るさつきちゃんに「ううん、大丈夫」とこたえる。

撮影が終わってすぐに駅の木陰でジュースを飲みながら時間を確認する。電車は今出たところで、次の電車は一時間後らしい。黄瀬くんに会わずにきたのに罪悪感をもちながらさつきちゃんと他愛もない話をするのだけれど、そろそろお互いに話すことをなくしてきていた。さつきちゃんは一切、黄瀬くんの話をしない。
「美樹っち」
聞きなれた声がして、振り向くと息を切らした黄瀬くんがいた。置いてくなんて酷いっスよ、と爽やかに笑ってわたしの隣に座る。さつきちゃんは「ジュースの缶捨ててくるね」と走っていってしまった。どうしよう、泣きそうになる。だめだ、泣いたらだめだ。顔を伏せると、黄瀬くんが「どうしたの」と心配そうな声で問いかけてくる。なんでもない、という意味をしめすために首を横に振る。
「久し振りにあえて嬉しかったッスよ」
「ごめん」
「涙声っスよね」
「違うよ」
「でも、泣いてるっスよね」
「泣いて、ないよ」
「泣かせたのは俺っスよね」
「ちがっ」
「泣かせてごめん」
体が一気に強い力にひかれる。目を開けると黄瀬くんの胸の中にいた。
「黄瀬くん、」
「俺、信じてもらえないかもしれないッスけど美樹っちのこと好きなんスよ」
「黄瀬くん、わたし、」
ああもうダメだ。涙が止まらない。
「黄瀬くんのこと、大好き」

イルカさんの宝石
20130109
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -