美容室に帰って浴衣から私服に変わる。お腹のあたりがぎゅうぎゅうしていたけれどそれが解かれて開放感に浸る。髪を綺麗にしてあげる、と美容師さんに微笑まれたのでお願いした。髪を洗ってもらって、乾かしたあとに美容師さんが「魔法かけてあげるから目、瞑って?」と言ったので、言われるがままに目を閉じると、さらさらのスプレーがかけられ髪を高く結われる感覚がした。ポニーテールだと思う。目を開けていいと言われてゆっくりあけると、明るい照明が反射して眩しい鏡にやはりポニーテールをしたわたしがうつっていた。が、ポニーテールをしていたアイテムに目を丸くする。
「このシュシュ…」
唖然とするわたしに美容師さんは羨ましい、と一言言って温かく笑った。
「黄瀬くんがね、これを使ってくれって。プレゼントですって」
「え…?」
「黄瀬くん、本当に楽しそうに言うんだもん。黄瀬くんのファンとして美樹ちゃんが羨ましいよ」
鏡にうつる自分を見つめるわたしに美容師さんは「黄瀬くんにお礼言ってあげて」と笑った。
ガタンと椅子をおりて彼の待つ待合室まで行き黄瀬くんの前に立って「ありがとうっ」と息切れしながら言うと、「美樹っちにそう言ってもらえて嬉しいっス、よく似合ってるっスよ」とはにかんだ。
美容室を出て、駅に着く前に、彼になんで買ってくれたのか訊くと、「今日の思い出を形で残せないかなと思って」と困ったように笑った。
わたしはやっと、黄瀬くんに対し抱いている、温かいような寂しいような変な感情を「恋」だと気付いた。

恋するおさかな
20121027
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