黄瀬くんがさっさと帰ってしまった後お兄ちゃんに浴衣と私服の両方を買うことを提案したら快くOKしてくれて、お兄ちゃんが「どうせなら着物屋に行こう」と手を引いてくれた。着物屋さんの浴衣なんて高そうだしいいよ、と言ったのに、服買う機会なんていままであんまりなかったんだからいいんだよ、と笑ってくれた。確かに、あまり服を自分で選んだことはない。だいたい親の買ってくるものを着ていた。それで満足だった。親の選ぶ服のセンスはけっこういいものだったし。
着物屋につくとお兄ちゃんは店員さんに「妹に浴衣一式買いたいから見せてくれ」と命令した。店員さんは中年の女性で、にっこり笑ってこちらへどうぞ、と試着室としては少し広めのところに通され、少々お待ちください、とそそくさとお店の奥へ行った。少しして、大きな箱をいくともいくつも持ってきた。そこには色とりどりの鮮やかな浴衣がいくつも用意されていた。帯や扇子、簪やかごまで。はじめてみるものばかりで目を輝かせていると、「何色にします?」と訊かれた。戸惑いながらお兄ちゃんを見ると、「好きな色言ってみろ」と笑った。好きな色、と言われてもとくに決まった色を好きになったことがないから戸惑った。悩む私を見ていた店員さんはくすりと笑って「全部見てみましょうか」と浴衣を並べていく。軽く50着はあるのではないだろうか。そろりと値段をみて驚愕するとお兄ちゃんは「このくらい払えるから黙って選べ」と言ってくれた。お兄ちゃんはとことん優しい。
浴衣を見ていると一着の浴衣に目がとまった。水色に蒼い花がうっすらとたくさん描かれているもの。それを察した店員さんが「帯は黄色がいいんじゃないかしら。試着してみましょう」とお兄ちゃんを追い出した。ぎゅうぎゅうお腹をしめる初めての感覚に戸惑ったけれどすぐに着付け終わり、お兄ちゃんに見せると「すっげー似合ってる」と頭にぽんっと手を置いてくれた。これにしよう、とすぐに決めた。
それから店員さんにお任せでかごと髪飾りも決めてもらった。お兄ちゃんも選ばないの?と訊くとおにいちゃんは「じゃあこれでいーや」と適当に決めた。深い青に縦の水色の線が入ったもの。
お会計を済まし、外に出ると先ほどよりも真っ暗で、時計を見ると20:00だったから早足で帰ることにした。
「ねえ、おにいちゃん」
「なんだ?」
「黄瀬くんに褒めてもらえるかな」
「大丈夫だ。可愛かったから。絶対驚く。可愛いって目ぇ輝かせて言うんじゃね?黄瀬のことだし。それよりも体調気をつけろよ」
「ありがと」
お兄ちゃんの言葉で少し安堵し空を見上げると瞬く星が綺麗で、黄瀬くんとも見たいな、と心の中で呟いたのはおにいちゃんに内緒。

死にぞこないの星
20120902
青峰ターン。青峰家がちょっとお金持ちだったら嬉しい。
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