神涙図書室 | ナノ




  紅の記憶 ★



 赤い海の中にいた。むせかえる程の錆臭さが鼻につく。

「リーゼロッテ」

 その名を呼べば、幼い少女のような姿をした、自らの使い魔が現れる。

「たべていい?」

 血を吸い尽くされた生き物の亡骸を指差し、見上げてくるリーゼロッテに頷く。

「骨も残さなくて良い」

 返事を待たずに、待ち焦がれた食事の時間に没頭する。
 その姿を確認して、ゆっくりと口元の赤を拭う。瞬間、めまいに襲われて、地面に吸い込まれるかのように倒れる。
 地面に頭がつく前に、姿を現した使い魔、ヴィルベルヴィントが、倒れ込む身体を抱き留めた。

「……余計な、事すんな」

「おやすみなさい」

 返事をする事なく、ゆっくりと手のひらで瞳を覆われる。仕方なく瞳を閉じると、朦朧とする意識に、キール、と囁く声が響く。

(名前で呼ぶな)

 最早、声を出す力もなく、深い眠りへと落ちる。

“キール・カーディナル”

 記憶が赤く染まる前の名前。戻りたくない昔の名前。

...fin


Thanks!
リーゼロッテ(魚住なな様宅)

2019/06/11 加筆・修正




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