背伸びと、踵の高い靴
キリンは、靴を履いて背筋を伸ばす。踵の高い、ショートブーツ。
大人になりたい。誰にも頼らず、助けて貰わずに生きていける大人に。そんな考えを持つ事自体が、自分を子供だと認めてしまうのかもしれないけど。
(仕方ないわ。現に今は子供だもの)
憧れる大人の背中を、追うばかりの。背伸びをしている、小さな子供。
「おや、キリンさん。今日も早いですね」
ふわりと降ってきた、暖かく柔らかい声を、間違う訳がない。
「おはようございます、学院長先生」
「おはようございます」
微笑まれると、どうしても目を合わせる事ができない。
決して、届かないとは知っているけど、せめて、精一杯の努力をしても良いですか。どうか、貴方の記憶に、心に、私を残していてください。
それを聞いたら、幼いわがままだと笑うでしょう。でも、貴方に出会えなければ、私はこんなにも優しい世界を知らなかった。今は、貴方が私の世界だから。
精一杯背伸びして、それでも足りなければ踵の高い靴を履いて。いつか、その靴を脱いで、裸足でしっかりと地面に立って、背伸びをせずに、貴方の前に立てたなら。
そうなったら、伝えます。
“助けてくれてありがとう。貴方の事が、好きでした”
...end..
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