いつか消え去るその日の後に
「あ、ナイくんだ!」
主に頼まれた雑務をこなしていると、メルアス姫に呼び止められる。 振り向いて御辞儀をしてやれば、満足そうに微笑む姫。
「エルにたのまれたお仕事?」
隣に並んで、自分が持っていた書類を覗き込み尋ねてくる。自分が頷くと、そっか、と興味なさそうにすぐ視線を逸らす。
「ナイくんと、お話できたら良いのにね」
そう言って笑う姫を見て、こちらも少し、表情を和らげる。言葉と言う手段を持たない自分の種族と意志疎通ができるのは、契約をかわした主のみ。主が仕える姫である彼女もまた例外でなく、自分と会話はできない。
「いつか、できるかしら?」
その言葉に、先日主と交わした言葉を思い出す。
『僕が死んだら、姫の使い魔として、ついてあげてくれないかな』
そうなれば、この姫と意志疎通をする事ができる。しかしそれは、姫にとって失うものの方が、大きすぎるのではないのだろうか。
いずれ、必ずその時はくる。しかし頷く事はせず、姫の頭を撫でた。また満足そうに笑う彼女の笑顔が、どうか少しでも長く、曇る事がないように。
主は、その晴れやかな笑顔を、守りたいと願うのだから。
...END...
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