欠けてゆく月
夜空を見上げれば、日に日に満ちて行く月が、明るく辺りを照らしていた。溜め息しかでないような明るい月。
そんな夜、リノンは一人で帰路を歩いていた。吐く息が白く散る。寒さに震えると、羽織っていた上着の襟を掴み、口元に引き上げる。
「寒い……」
明るい月の光は、柔らかく暖かに見えるのに、冬の寒空では冷たくて鋭い。身に染みてそれを感じたリノンは、足を早めた。
寮に帰ったら温かい飲み物でも飲もう。ルームメイトはもう帰っているだろうか、良かったら一緒に……と、そこまで考えた所でリノンは自嘲気味に笑った。
「馬鹿みたい。何が一緒に、だよ」
他人なんかあてにしない、他人に干渉しない、自分の力で生きていく……そうやって自分を奮い立たせてきた今まで。それが、学院という集団生活の中で、嫌でも様々な人と関わる事になり。当たり前に誰かと過ごす日々に慣れきってしまいそうになっていた。
「そんなの、続かない」
肉親だって裏切るのだから。それが、他人という不確かな存在なら尚更だ。いつか離れていくのなら、最初から深入りなんかしないほうが良い。
「自分だけは、裏切らない」
どんなに丸く輝く月も、いずれまた欠けていく。移り変わる月日に、変わらない想いなどあるわけがない。
「馬鹿みたい」
強がって、はねのけて、馬鹿にする。自分以外を拒絶することで、自分が強い人間だと錯覚できた。そういう生き方しか知らなかった。
月日と共に欠けて行く、鋭く尖った心の先っぽ。自分を守るために研ぎ澄ました武器は、差し伸べられた手を傷つけて、自分自身を傷つけて行く。
「わたしは1人でも大丈夫」
それは、月だけが聞いた小さな強がり。
...end...
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