神涙図書室 | ナノ




  守らなくても貴女は強いけど



「コーディリアっ…!!」

「あら、アルバートくん」

「うるせー」

 神の涙学院、保健室。その扉が、アルバートによって勢い良く開かれる。鬼気迫る様子で飛び込んで来た彼とは裏腹、腕に包帯を巻いたコーディリアは、お茶を啜りながら優雅に訪問者を迎えた。その横では、ナギが迷惑そうに顔をしかめる。

「健康なら保健室来んじゃ…」

 ねーよと続けようとしたナギの横をすり抜けて、アルバートはコーディリアの側へ移動する。無視か、と苛立った様子のナギは、空いたティーポットを手に静かに退出していった。

「クローディオに、コーディリアが保健室に向かったようだと聞いて……怪我?病気?この包帯はっ!?」

 綺麗に包帯が巻かれた左腕に視線を落とし、勢いよく掴もうとして思い止まり、少し遠慮がちに触れる。コーディリアはなんともないわ、と笑って言った。

「生徒を庇って負傷だなんて、まだまだね」

 無傷で救えるようにならないと!と拳を握る。聞けば、剣術授業中の、生徒同士による事故のためだと言う。監督不行き届きで生徒に怪我はさせられないからと、とりあえず身を呈して生徒を庇ったと言う。

 とにかく何ともない、を繰り返すコーディリアの頬に、アルバートは自らの右手を当てた。

「貴女は強い人だけど………」

 俯きがちに外していた視線を正面に戻し、コーディリアの両目を捉える。

「たまには俺に守らせてよ」

 静かな沈黙の後、コーディリアは微笑む。

「百年早いわ」

「…ですよねー」

 とにかく、大事なくて良かった。と言って誤魔化すように笑ったアルバートは、じゃあこれで、と背を向けた。

「ありがと。気持ちは嬉しいわよ」

 その背に、静かに掛けられた感謝の言葉。今は、それだけで満足だから。きっと強くなろうと、静かに誓う。

「あ、そうだ、アルバートくん」

 歩を進めていたアルバートは、思い出したように呟かれた言葉に足を止め、振り返る。

「また実弾の戦闘訓練付き合ってね!今度は遠慮しないで本気で撃ってくれて良いのよ?」

 今までに無いような笑顔で言われたその言葉に、脱力しそうになるのをなんとかこらえ、アルバートも笑顔を返す。

「貴女と2人で居られるなら喜んで」

 どんな事でも、彼女を笑顔にできたら嬉しい。どんな内容であれ2人で過ごせるなら嬉しい。そう思えている想いは、恐らく末期レベル。

「お前馬鹿だな」

「ずっと居たのかい?」

 保健室を出ると、壁に背を預け、片手にカップ、片手にティーポットを持ったナギが居た。カップの中身を飲み干すと、アルバートを睨みつけた。

「戻るタイミング無かったんだよ」

「それは失礼」

 それにしても、とナギは壁に預けていた背を離すと、アルバートの横に並んだ。ふわりと、お茶の香りが漂う。

「戦闘デートとは新しいな」

 からかうように言い捨てて、そのままお茶の香りだけを残し、保健室へと入って行った。それを見て、アルバートも廊下を歩き始める。

「デートっていう概念が彼女にあればそれでも嬉しいんだけど」

 あくまで訓練。そして若干本気レベルの戦闘。何が理由で心拍数が上昇しているのか自分でもわからない。

「しかしそれも嬉しいんだ!」

 急に立ち止まって叫んだアルバートを、数人の生徒が何事かと避けて行く。

「いざ自分磨き!」

 手合わせした彼女にがっかりされないように、技を磨いておこうと、教員用訓練所に向かう。早足だった歩みが、勢いを増して走り出す。


 戦闘狂で、たまには守らせてくれないかな、と思うほどどうしようもなく強い。恋愛面はちょっと弱いみたいだけど。

 そんな貴女が、好きなんです。


...END...



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