神涙図書室 | ナノ




  マニアックな彼等



ある日の神の涙学院。
居残りでプリント作り等をしていたロンシェ、ツカサ、ウィリアムの3名は、銘々に作業をしていた。ふと、外にスオウとニルヴィラが連れ立って歩いている姿を、ロンシェは見つけた。

「そう言えばさぁ…」

思いついたように口を開くロンシェ。
事の始まりは、そんな些細な事だった。

「ツカサは生足とスパッツ、どっちが好み?」

「は?…何、そのマニアックな質問……」

急に妙な事を問いかけられて、一瞬耳を疑う。しかし、プリントを運ぶ足を止め、すぐさま疑問を返すツカサ。

「えー、男なんて皆マニアックでしょ。ウィリアム先生は?」

「生足。あ、美脚限定で」

「アンタも何ナチュラルに答えてんだ…」

ロンシェは、斜め前に向かい合って座っていた、ウィリアムに尋ねた。ウィリアムは、作業の手を休めずに、短く返す。ツカサは脱力した。
それには気を止めず、ロンシェはウィリアムの方へと顔を向ける。

「へぇ〜、でもなかなか無いだろ」

「甘いな、それくらいにこだわってこその……」

「応じるなっ!議論するなっ!」

ツッコミながら机の上に、プリントの束を乱暴に積み重ねた。
ウィリアムは作業の手を休めると、不服そうにツカサを見る。つられてロンシェもそちらに視線を送る。

「何ー、お前だって興味ない事も無いんだろー?」

「だから論点が違うんスよ!良いスか?話の内容は?場所は?相応しくないっしょ!?」

バシバシと机を叩く。ウィリアムは、うるさいうるさいと大げさに首を振る。

「良いじゃねーか。どーせ俺ら以外誰もいないし」

そろそろ飽きたのか、ウィリアムは完璧に作業の手を止めていた。

「ツカサ、興味あるって部分は否定しなかったな」

「混ぜっ返すな!」

笑いながら話を戻そうとしたロンシェに、鋭く言い放つ。悪びれる様子のない先輩に、脱力するしかなかった。

明らかに、ツッコミが足りない。この2人を相手に、自分では役者が足りないだろうと、ツカサはうなだれる。ロンシェは、どちらかと言えば同属性のはずなのに、他にツッコミ役がいれば、それをからかい始めるフシがある。これでは明らかに2対1、そして自分は、1人ならまだしも、2人相手ではまだ多分、未熟。

「いつまで何してるんだ、お前達」

「イスカリオットさんっ……!」

救世主!とばかりにツカサは開かれた扉を見る。そこには、学院内見回りの途中だったらしい、イスカリオットが立っていた。
彼は、自分と完璧に同属性のはず!と、失礼で身勝手な希望を込めた視線を彼に注ぐ。

「……」

経験からか、何となく不穏な空気を感じとったイスカリオットは、無言でツカサの視線を受け、また無言で扉を閉めた。

「ちょ、え!?マジすかっ!」

ロンシェが笑いをこらえる気配を背中に、慌てて扉に駆け寄って開け放つ。そこにはまだイスカリオットの姿があった。

「ツカサ…いや、悪い。何だか嫌な予感がした」

「いや、アタリなんですけど…頼むから見捨てないでくださいっ…!」

そう言うと、イスカリオットを職員室内に引き入れた。

「…で?結局何の話をしてたんだ」

諦めたのか、イスカリオットは自分の席に寄りかかると、腕組みをして3人を見る。

「女の好み?」

「あれ、そこまでの話だっけ?パーツじゃなくて」

「イコール好みじゃね?」

「いやまたニュアンス違ってくるって」

ウィリアムがザクッと状況を説明すると、ロンシェが細かい訂正を入れた。

「てか本当に何だよもう…」
ツカサは横を向いてため息をついた。

「お前ら………」

イスカリオットはと言えば、組んだ腕と肩が小刻みに震えている。

「そんな話に興じるくらいなら職員室出ろ!!俺は学院に残った生徒に対して帰宅命令を出し、鍵閉めて回ってるんだぞ!それが何だ!一番最初に見つけたのがくだらない話に花咲かせた教師とは!生徒に示しがつか…げほっげほっ」

「あぁあ、大丈夫っすか?気持ちはわかりますけど、そんな急に怒鳴ったら身体に悪いって!」

ツカサは、いっきに怒鳴りすぎてむせたイスカリオットの背中をさする。とにかく、これで2対2。

「すまん、とにかく早く帰っ…」

「よっしゃ、じゃあ飲み行こうぜー!」

帰るように…と言いかけたイスカリオットの肩に片手を乗せたのはウィリアム。

「お、賛成ー」

と言ってツカサの腕を捕まえたのはロンシェ。

「「はぁっ!?」」

と意味不明さに驚いたのは、ツカサとイスカリオットの二重奏。

「確かに職員室じゃ話しづらいもんな」

「そうだな、そしてここは年長者なイーシュせんせーの奢りでー」

「お前こういう時ばっかり年長者扱い…と言うか俺は行かん!大体まだ見回りの途…」

「あ、イーシュ居た〜。学院の見回り、ボクと使魔でちゃちゃって終わらしたからぁ。職員室だけよろしく〜。そんじゃお疲れ〜」

「ニーニャ…お前もこんな時ばっかり仕事早いな……」

タイミングを見計らったかのようなニーニャの言葉に、脱力したイスカリオット。

「万事オッケーじゃん。んじゃ行こうぜー」

「あ、ツカサ鍵閉めてな」

「はいはいはい……もう良いよ。行くよ飲むよ」

諦めて戸締まりし、ウィリアムとロンシェ、そして2人に引きずられるようにして先を行くイスカリオットに続く。
そう最初から、常識人な苦労人が、自由人に勝てる訳がなかったのだ。1対2でも、2対2でも。

「お前らいい加減にしろ!!」

完璧に巻き込まれただけのイスカリオットの怒声を最後に、4人の姿は学院から消えたのだった。

END




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