神涙図書室 | ナノ




  とある使魔の世界精霊の日



 来てしまった。
 来てしまったものの、その部屋のドアをノックするのを躊躇った。
 世界精霊の日。自らの使魔に感謝を告げる生徒達を見て、そういうものがあると知った。知ってしまって、いつもは自主的に奪うことはしないフェリチータの身体を借りて、ぼんやりと歩みを進めていた場所。その場所が、あの男のいる場所であったことに、自分で呆れる。

 どうしたものか迷っていると、後ろから人の気配がした。振り返ると、外出していたのか、今まさに叩くのを躊躇っていたドアの部屋の主、アドルフがいた。

「フェリチータ?」

 呼ばれた名前に、身体を強張らせる。するとすぐに「ああ、ごめん」と優しい声色が近づいた。

「フェリーチェ」

 アドルフは笑顔を見せた。呼ばれた名前は、この身体のものではない。それをこの人は知ってくれている。アドルフがこの身体に向けている笑顔は、きちんと自分を認識してくれているもので。こんなことくらいでどうしようもなく騒ぐような"何か"は知らなかった。

「ああそっか、今日は世界精霊の日だったね」

 納得したように頷くアドルフから、気恥ずかしくなって顔を反らす。
 できれば、もう。

「ありがとう、フェリーチェ。誰にも知られず、フェリチータを守ってくれて」

 この"何か"は知りたくない。
 そんな言葉で、泣いてしまいそうになるほど弱い自分が、この先どうやってこの身体を守れば良いの?

 end



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