アルランジュとスィナンの花祭り
花祭り。上空から降り注がれる花を眺めて、自分が経験してきた祭りとは全く変わったこの穏やかなイベントに、ふむ、と頷く男がいた。
この日のために用意される気球や、翼人、魔動力の乗り物に乗った教師など、空を舞う人々が花を降らせている。アルランジュことアール=ランジュは、落ちてきた花を拾って、従者の男、スィナンを呼んだ。
「スィナン」
「は」
短く声を上げ、素早く側に控えたその従者の髪に、すい、と花を挿してやる。
「はは、似合うな」
「……は?」
不可解そうながらも、主に付けられた花を理由もわからないままに外すこともなく、怪訝そうにこちらを見るだけの従者に、ははは、と笑顔だけを返す。
「親しい者に贈ると聞いたのでな、現状、お前しか思い当たらぬ」
「……アール=ランジュ様が、平民の祭りに興じることもありませぬ」
「何、身分など今は皆同じ学生だ。余も、お前もな」
言いながらも偉そうな態度を崩さないアルランジュに、スィナンも恭しく首を振る。
「そういう訳には参りません」
髪に付けられた花を外す。
「……そうか」
似合っていたのになぁと、からかうように告げれば、突風が吹いて、スィナンが手に持つ花を散らせた。花びらが風に舞い、2人が風に遊ばれた髪を元に戻し、どちらともなく花を見る。
「どれ、戻るとするかな」
沈黙を破るようにアルランジュが告げ、お供しますとスィナンは後に付く。突然の突風に、空にいた翼人達や、それを見守っていた人々の賑やかな声が背中に響く。
少し、歩いて。スィナンは花とは呼べなくなったそれを一瞥し、それでも大事そうに懐に仕舞った。
end
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