深紅の苦悩と、梅鼠と水色の団結 ★
セルジオと別れ、少し歩いた先で、カーディナルは耐えきれずにしゃがみこむ。ちっ、と舌打ちをしつつ、息を吐いた。
言葉や態度とは裏腹、躊躇いながら、気遣うように、様子を伺う青緑の瞳。あれで自分は人嫌いだと思っているのだから、呆れるを通り越して苛立つ。自覚もないほどに偽った姿は、目標を見据えることでいつしか自分すら騙しているとでもいうのか。
脳に酸素が回らない中、そんな考えたくもない事に思考を支配されて、苛立ちが募る。ぐるぐると、回る視界で誰かの足を捉えた。
「てめぇ、何ほっつき歩いてやがる。おとなしく寝てろっつったのが聞こえなかったのかよ」
上から降ってきた言葉に顔を上げれば、苛立ちを隠さない、年齢も性別も解りづらい顔つきの男が、仁王立ちのように此方を見下ろしていた。
「ヤブ医者……」
うんざりと呟かれたいつもの呼称に特に反応することなく、ナギは眉を上げる。
「俺の許可なくベッドから降りるなっつったろ。今度は縛り付けんぞ」
「ああ? やれるもんならやってみろ」
「ほう、言うこと聞かずに脱走して倒れてんのにまだ懲りねぇのか」
「倒れてねぇ。そもそも、てめぇに担がれるほどやわじゃねぇ」
「ふん、わざわざ俺自らお前を担いでやるわけもねぇだろ、ジンラン」
「呼んだかねっ!?」
突如、後ろから現れた背の高い男に背負われる。抵抗する間もなく起きた出来事に、ナギを見れば、得意気な顔を見せた。
「さ、行くぞ」
「ナギくん、あまり揺らさない方が良いのだろうか?」
「本来はな。こいつに至っては大丈夫だろ。それよか逃げられないようにしとけ」
「了解なのだよ!」
「てめぇらな……」
本当に遠慮なく走り出したジンランに、多少抵抗するが意にも介さない。
「医務室着いたらベッドに投げて縛り付けとけよ」
「再び了解なのだよ!」
「ふざけんな……」
はははー、と走り出したジンランと、転んで怪我して仕事増やすんじゃねぇぞ、と後ろから声を掛けるナギの声を最後に、カーディナルは揺れる視界を閉じて、意識を手放すことにした。
背中にそれを感じたジンランは、ふと足を止め、後ろを振り返る。不規則な呼吸に安堵したようにまた走り出す。
それを見ていたナギは、馬鹿野郎が、と吐き捨てるように呟くと、ゆっくり歩き出した。
――……視点を変えれば、全ての出来事は、誰かにとってのほんの一瞬。見えてくるものも想いも感じ方も。全ては、自分だけが知っていて。自分ですら知らない何かを、内包して、ただ存在する。
...fin
Thanks...!!
魚住なな様宅
ナギ・イオノ
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