言葉じゃない愛を
月もない闇夜。クォルヴァから生きる意味を問われたクラウスは、背を向けた。
その背中が、吐き捨てるように発した言葉を聞いて、ファリティは悲しみに顔を歪めた。暗鬱とした瞳のクォルヴァと、いつもより頼りなさげな背中のクラウスを交互に見て、それでも迷わず、クラウスを追いかける。
「クラウスっ……!!」
『望まれず生まれた命だから、死んでも構わない』
諦めたように吐き捨てた目の前の存在を、堪えきれずに抱き締めた。どうしたら、どうしたら伝わるんだろう。
「……ファリティ?」
微かに、困ったように震えた身体を、離してなるものかと回す腕に力を込めた。どうして、伝わらないんだろう。
「クラウス。私は、貴方を1人にしたくありません」
抱き締めたまま、呟くように告げた言葉に、拒絶するように添えられていた手が、力を緩めた。そのタイミングを逃さず、前に回って、瞳を捉える。
「愛して、います」
迷っていた。伝えるべきなのか、伝えないべきなのか。でも、目の前で不安に揺れる瞳を見たら、迷いは消えた。私は、彼を1人にできない。
「たとえ望まれずに生まれた貴方だとしても、私は、今の貴方を望みます」
迷いに揺れた瞳を見つめる。どうしたら、伝わるだろう。言葉だけじゃない愛が。貴方は、1人じゃないと。この心全てを、貴方に晒すことが出来たら良いのに。視界が少しだけ滲んで、目を伏せた。上手く伝えられないのだろうか、今の私には。伝わらないのだろうか、彼には。
「俺は……」
静かに呟かれた声に、伏せた瞳を上げる。探るように、迷子のように情けなく揺れる瞳と目が合った。それすらも愛しいと、思ったときには、動いていた。どうか届け、と願う。
それはまだ、ぎこちなく、乱暴な、幼いくちづけ。
...fin
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