神涙図書室 | ナノ




  朝靄に眠る



 同じ瞳をしていると、そう思っていた。

 黒魔術の副指導教師として、接点のあったクラハ教師。業務連絡や引き継ぎで言葉を交わす際に見た、澄んだ青緑の瞳に移る、悲哀の感情。それはハゼルが鏡を見たときに、自分の瞳に見掛ける、色。

 朝靄の濃い霊園。冷たい空気を動かして、ふわりと現れた影を見て、やはり、と納得した。この場所に用があるということは、そういう事なのだろう。いつもの黒い衣服が、喪服にすら見える。

 すれ違い様に合った目線。瞳は、やはり今日も憂いを帯びていて。しかし、次の瞬間には、薄く微笑んで頭を下げた。予想外の動きに一瞬だけ驚き、同じように頭を下げる。

 ただそれだけのやり取りの後、通りすがりの慰霊碑の下に。強く握りしめられた跡の残る花束を見つけて。
 何故だろうか。わかるはずも無い、予測でしかない彼女の思いが、苦しく胸を打つような不思議な感覚が、鼻の奥をツン、と掠めた。

 彼女の愛した人は、今はもうただ静かに眠るだけ。

...fin



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