神涙図書室 | ナノ




  訪れない未来への羨望



 どちらも、まだ幼いんだなぁと、ヴェルジェはそのやりとりを見ていた。ようやく声が聞こえるくらいの、離れた位置で。恐らく、どちらが悪いとかではない。悪いとすれば、それは2人の性格的な相性で。それを、指摘してやることはしないけれど。

 周りに真っ直ぐに愛されて、素直に育ってきたメルアスは、人は皆そういうものなのだろうと思っている所がある。素直に、正直に、思ったことを思ったままに伝えることを、良しとしている。ただ、中にはそれを受け入れられない人間もいて、あのリノンという少女は、そのタイプなのだろう。

 リノンはひねくれている。そう気づいた筈のメルアスも、自分を前にして発せられる否定的な言葉の数々を、言葉の通りに受け取って諦めた。ひねくれている、そう気づいたなら気づけてもいい筈の、リノンの心。素直なメルアスは、相手が発した言葉を、言葉通りに素直に受け取る。人の言葉の裏に隠された心、それに気づくことはできない。

 リノンもまた、言葉にしなければ伝わらない、そんな大前提を無視して攻撃的に叫び続けているのだから、叶うはずもない。最も、本当のリノンの心がそうである可能性も、ヴェルジェには否定できない。自分は、彼女ではないのだから。

 そんな2人がいつか成長して、メルアスが諦めずにまたリノンに声を掛けて、その時にリノンが少しでも素直に心の内をメルアスに晒せたなら。お互いに、少しだけでも相手を受け入れる余裕と、考えるだけの経験を積んだなら。

「きっと、良い友達にはなるんだろうな……」

 それを見ることは、多分自分には叶わないけれど。

 泣きそうな顔で駆け寄ってくるメルアスと、そんな彼女を見ているリノンを眺め、ぼんやりと考えた。少しだけ、続く未来がある君たちが羨ましい、と。

...fin



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