去り行く銀色に羨望を
「リノンって、言ったわよね? あなた、どうしてそうひねくれてるの?」
彼女は恐らく、なんの悪気もなしに、ただ素直にそう言った。
「は?」
「あなた、いつも他人から距離を取るくせに、そうやって皆の事見てるじゃない。一緒にいたいなら、こっちに来なさいよ」
メルアス。彼女がとある国の王女だということは周知されている。どことなく高圧的な態度は、意図しての事ではなく、育ち方がそういうものなのだろうというのは分かる。分かりはするが、気に入らない。
「何言ってるの? 頭の中お花畑なの? お姫様って、中身もふわふわなの?」
「だからぁ、なんでそうやってわざわざ攻撃的な態度とるのよ。あたし、見てたから知ってるわよ。あなた、いつも寂しそうな顔してるもの」
見たままを思った通りに、素直に表現する事になんの迷いもないこの態度と自信。それが相手を傷つけることがあるなんて、思いもしないんだろう。
「寂しそうな顔って何? 生まれつきこの顔だけど、何か文句ある?」
「あのねぇ、いい加減にしないと、あなた、周りに人居なくなるんだからね」
「……願ってもないよ」
「本当ね? 後悔しないのね? 本当に1人なっちゃうんだからね?」
「何それ。私になんて言わせたいの? 寂しいです、一緒にいてくださいお願いしますって? 喜んでちやほやしてもらえるとでも思った? 高慢だね」
少しだけ、ピクリと肩を震わせたメルアスは、残念そうに首を振った。
「……呆れたわ。ちょっとでも、友達になれるかもなんて、思ってたあたしが馬鹿だった。邪魔して、ごめんなさいね」
苦しそうに言い捨てて、従者の元に駆けていく後ろ姿を、ただ目で追った。
「……冗談じゃない」
あんな素直に真っ直ぐに生きている人間の近くにいたら、余計に自分が惨めになる。あのお姫様は、寂しければ寂しいと言うんだろう。好きなものは好きで、嫌いなものは嫌い。はっきりと、伝えるんだろう。相手がそれをどう受け取るか、どう思うかは、あまり意識せずに。
『どうしてそう、ひねくれてるの?』
「……そんなの、自分が知りたいよ」
誰かと一緒にいたいのに、誰とも一緒にいたくない。誰かに好きになって欲しいのに、誰も好きになりたくない。そんな矛盾した感情を抱えて、1番困ってるのは自分自身だ。
背を向けて、誰かと歩き出す銀髪のお姫様。その手をもう、こちらに差しのべてくれることはないんだろう。
『友達になれるかもなんて、思ってたあたしが馬鹿だった』
「……勝手に諦めたのは、そっちでしょ……」
キミは、このままの私を受け入れてはくれないんでしょ。こっちから、友達になってくださいって言わなきゃ受け入れてはくれないんでしょ。そんなふうに与えられる友情なら、いらない。
1度だけしか伸ばさない手なら、最初から差し出さないで。拒んでも傷つけても、その手をずっと伸ばしていてよ。掴みたくはない。でも伸ばしていて欲しい。諦めないで。構ってよ、こんな私のままで、友達にならせてよ。そんなの、言葉になんかしないけど。
「……馬鹿みたい」
自分が1番よく知ってる。甘えない、甘えた人は嫌い。だから、自分が嫌い。
遠ざかっていく銀髪の後ろ姿は、隣の誰かと笑いながら遠ざかる。本当、馬鹿みたいに……羨ましい。貴方には、他の誰かがいるんでしょう?
...fin
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