ダンデライオンの精霊祭 ★
「カボチャの精霊祭でさ、仮装して演目やりたいね? トリック・オア・トリートって練り歩いてさ」
簡易テントの横に腰掛け、日報の日付を書き込んでいたダンデライオンの団長、シキウは、唐突に呟いた。
「あ、楽しそう。お菓子もらえるかな」
夕飯の準備を手伝っていたらしい団員のエデルトルートが、外に置かれた長机に食器を並べながら、シキウを振り返る。振り返った拍子に長い髪が波打ち、その後ろから歩いてきた女性にぶつかる。露出した素肌に柔らかい髪が触れ、少しだけくすぐったそうな表情を見せたのは、湯気が立ち上る鍋を手にした、同じく団員のビビ。
「また、団長は急だねぇ」
呆れ顔を作った両手の塞がったビビを見て、エデルトルートが鍋敷きを長机にひょいと置く。ありがと、とビビが鍋を置くと、美味しそー、と中を覗き込む。今日のは良いできさね、と得意気にお玉でぐるぐるとかき混ぜる中身は、ビビ特製の、具沢山に作る有り合わせシチュー。そんな2人のやり取りを見ながら、うん、と笑顔で頷くシキウ。
「ビビちゃんは花魁でしょ」
「精霊祭の仮装かねぇ、それ」
お椀を手に取り、分け始めながら、ビビはため息をついてみせた。確かに、東国出身で普段から着物を崩して着ているけど。花魁衣装にも違和感はないだろうけど。はたしてそれは仮装なのか。そんなビビを意に介さず、シキウは、うーん、と続ける。
「エディはヴァンパイア?」
「えー、ただの種族じゃん」
確かに、オーソドックスなヴァンパイア仮装をしたところで、似合うだろう。ただ、そこに面白味や新鮮味があるとは思えない。やだやだー、とむくれるエデルトルートから視線を外し、テントの中で飲み物を用意していた団員のシャオユーに目をやる。何? とでも言いたげにこちらを見た涼しく整った顔。経験上それをあまり眺めずに、にっこりと微笑んだ後で違和感なく視線を外す。
「んー? カボチャの精霊祭の仮装の話。シャオユーは……天使、いや悪魔? 魔女とか黒猫もいいかな。うーん、なんでも似合いそうで迷うねー?」
「あんまり、目立たなくて良い」
団長の決定なら、やるけど。そう付け加えると、別のテントの方にいる団員用の飲み物を置きに行ったようだ。それを見送るようにしていたビビだったが、で? と、シチューを分けながら尋ねる。
「団長は何やるんだい?」
「えー? 僕は適当にカボチャでも被っとくよ」
「つまんなーい。ていうか団長、実は考えるのめんどくさいだけでしょう?」
ジタバタと抗議するように体を揺らしたエデルトルートに、誤魔化すように笑いかける。
「やりたいのは本当なんだけどね」
笑いながらパタン、と日報を仕舞うと、長机の椅子を引く。分けられたシチューに、わぁ、と顔を綻ばす。
「あ、本当だ美味しそう」
「だろー? そう言えばカボチャも入ってたかもねぇ」
「仮装のカボチャ精霊祭楽しみだな、やろうね、団長?」
「あははー、衣装用意しなきゃだねー。どうしよっかな〜」
ダンデライオンがその年の精霊祭をどう過ごしたのかは、また別のお話。
...fin
thanks...!!
魚住なな様宅
エデルトルート/シャオユー
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