ただいまとおかえりの幻想
死ぬつもりだった。
彼女の死の運命を避けられず、両腕を失ったあの日。動かなくなった彼女の亡骸を、しばらくは葬ることも出来ずにいたら、屍術師に唆されて、亡骸ですらなくなった。幸せなんて、簡単に崩れて、2度と手に入ることはないのだ。
そんな俺の前に、2人の男女が現れた。
禁忌の術を研究したいと言った2人に、後見人として力を貸したのは、気まぐれか、気休めか。
ともあれ、1度は諦めた命で、なんとか生き長らえている。
占星術の仕事から帰り、協会の居住区へと足を踏み入れた。
「あ、サイード! おかえり」
「今日は遅かったな」
並んで出迎えてくれた2人に、かつての自分達を見ていることは否めない。禁術に手を染めた以上、自分達が幸せな未来など掴めないことは解っている。
けれど。
「……ただいま」
そう言える今の日々を、幸せだと感じている自分がいるのだから、未来などわからない。
...fin
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