こんな世界があるなんて知らなかった◇
……騙して、殺して、傷つけて、傷つけられて。
そんな生き方しか知らなかったから、ありのまま、取り繕わない自分で生きていくことができるなんて、知らなかった。
ふいに背後に人の気配を感じて、咄嗟に投擲タイプの武器を構えて振り返る。
「あら、物騒ね。ファビオ先生、職員会議の時間よ?」
武器を構えられても、静かに妖艶な笑みを見せたプルーア教師は、僕がそのまま武器を投げることなど考えもしないのだろうか。最も、一筋縄ではいかない教師揃い、投げたところで素早く反応できるのだろうが。
「ああ、すまない……」
ゆっくりと武器を仕舞う。
「不用意に後ろに立った事は謝るわ。あなたの過去を考えるべきだった」
「いや……僕は」
どう答えて良いのかわからず、下を向いてしまうと、ふふ、と笑う声。
「そう、迷子みたいな顔をしないでちょうだい。置いて行きづらくなるわ?」
頬に手を添えられて、上に顔を向けられる。通常であれば自然に目が行くのであろう強調された彼女の胸が目に入る。
「すまないが……僕は女性の脂肪に興味がない」
もしや誘惑されているのかと、なんだか申し訳なくなって首を振ると、そうね、と頷く。
「知ってる。だから構ってみたの。本当ね、からかい甲斐もないわ」
つまらない子ね、と。綺麗に笑う彼女に、首を傾げる。
「分からないな、そもそも、貴女はそんな人間ではないだろう。その手のタイプの女は様々相手にしてきたから、分かる。自分の気持ちと自分の身体を、大事にしたほうが良い」
そう言うと、少し驚いたように左右色の違う瞳を瞬かせて。
「……同じ言葉を返すわ。此処では、あるがままの自分で居てみたらいい。貴方こそ、随分遠慮しているように見えるけれど」
「殺して、騙してを繰り返してきた僕が、こんな場所で、穏やかに偽らずに、生きて良いのだろうか」
「さあ、その答えは私があげるものじゃないわ」
「それに多分、あるがままの僕は大分うざいと思うのだが……」
「……自覚があるなら、ユリウス先生に構うのをやめてあげなさいな」
呆れたようにそう言い終わるタイミングで、時間の鐘が鳴り響く。
「じゃあ、行きましょうか。今日は新任教師の紹介もあるそうよ。今年は人数が多いそうだから、早めに、と言われていたの」
「ああ」
あるがままに生きて良いのだろうか。その問いに答えられるような、そんな出会いは、いつも突然で。そんな事を考えていた頃が懐かしいくらいの、今。
「ベルデリーフ先生っ、何度呼んでも愛らしい響き、可憐なその姿にぴったりなお名前で、貴女の名前が呼べるだけで幸せですっ」
もう、と笑うその姿を見ている為なら。
この場所で、生きていきたいと思えた。
...fin
name thanks...
ベルデリーフ・ディーゼル 3390さま宅
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