流れゆくまま
満天の星空、広がる砂漠。
その真ん中に、その影はあった。真っ黒なマント、布のたっぷりとした衣服をその身に纏い、吹き付ける風を受けて、ただ、立ち尽くす。衣服は風に煽られ、長い髪もまた、時折頬を打つように流れる。何を見るでも、何を聞くでもないようなのに、その両の目はただ一点を見つめて。
「星が墜ちる日に、砂漠の海で、迷う魂」
呪文のようにそう呟くと、ポゥ、と炎のような灯りが浮いた。
「キミの事か。まだ力のない術者に召喚された死霊かな?」
『え、る、ね、す、と……』
「エルネスト?」
死霊から発せられた音のような響き。辛うじて文字として届いた言葉を拾う。
『かれを……たすけて。かれは、つよい……をもちすぎた……のまじゅつし。ちしき……すくないまま、まりょ……ままにじゅつ……った。ぼうそう、くり……せば、あの……いのちだけでなく……が、あぶない』
「ちょっと待って聞き取れない。助ける? 何から? それとも死にそうってこと?」
それだけ聞き取ったと確認し、肯定するように瞬くと、炎は弱々しく消えた。
「エルネスト……か。助ける、ねぇ」
うーん、と風に流された髪を押さえる。
「情報が少なすぎるし、気が向いたら、かな。約束はしないからね」
とりあえず学院に報告しとくか、と。キーファルトは砂漠を抜けるため、使いきりの転送魔方陣を描いた。
自らは、流れゆくまま。
風の便りを、手土産に。
帰り行く場所で、彼はどう動くだろうか。考えるまでもないか、とキーファは笑う。だからこそ、自分は安心して流れているのだから。
報告を受けたパリスツェラが見つけたエルネストと言う少年は、後にクォルヴァと名を変える。
...end...
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